物体の色は外部から当たった光の反射なので、さまざまな色彩を見るためには、太陽光のように巾広い波長を持った光が必要になります。単波長の光だけしかない場所で、その色以外の色を見ることはできません。正常に色を識別できる目でも、トンネル内の黄色いナトリウムランプのもとでは、すべての物体が黄色と黒だけになってしまいます。
深い海中は、水や浮遊物による光の吸収と散乱のために480nm(ナノメートル)を中心とした青い単色光の世界です。その水深に青い光だけしか存在しない以上、黄色や赤の物体を地上のような色に表現することはできません。自から発光する物体だけがその色彩を表現可能です。
つぎに、眼球内に色の違いを感知するためのセンサーがあること。色を見分けるには、特定の波長に反応する複数の視物質が必要です。人間には650nm(赤)・530nm(緑)・420nm(青)に対応した3種類の視物質がありますが、紫外線を感じる物質を持たないため、そこに紫外線を反射する物体があったとしても、色として感じることができません。多くの鳥や魚類は4種類の視物質を持っており、人間には見えない範囲の色まで見えていることが判っています。
従来はS-電位(註)の発生によって、その生物の網膜が特定の波長の光に反応したかどうかを判定していました。現在では視物質を直接生化学的、分子生物学的に解析することで、はるかに精度の高い結果が得られるようになっています。従来は色盲と判別された魚種にも色覚が存在することが判ってきました。 |
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(註)S-電位
網膜の水平細胞が光に反応した場合に生じる電位。スェーデン人研究者スベティヒン(Gunnar
Svaetichin 1915〜1981)の頭文字をとってS-電位と呼ばれる。 |