06 イカ釣り実践編 その3

ヤエンのタックル
解説:福重喜竿坊

 ヤエンは「 野猿 」とも「 矢遠 」とも書き、もともとは山仕事用の索道( ロープウェー )からブラ下がるゴンドラのことでした。
 現在のヤエンは和歌山周辺で発生した泳がせ釣りの一種です。イカがエサを夢中になって食べているうちに障害物のない場所まで引き寄せ、道糸に沿わせてフック( ヤエン )を送り込み、そこでフッキングさせてから取り込むのがヤエン釣法です。手返しはよくありません。
 喰いのいい生き餌を使うため昼間でも釣れますが、ヤエンが見えてしまうために、驚いて逃げる確率が高くなります。基本は朝夕のマズメ狙い、夕暮れから半夜にかけての釣りです。新子の出る10月から始まって翌7月上旬までがシーズンですが、水温が15~16℃以上必要なので、厳寒期は釣れる場所が限定されます。
 場所や時期によってスレ具合は違うとしても、取り込み率が30%あれば上々とされるスリリングな釣りです。

竿

 イカを驚かさず、竿の弾力を利用してヤエンを喰い込ませるには、軟らかい竿が向いています。ヤエンを入れるときに、竿を後ろに倒してラインを掴みますが、このときに外ガイド竿だと糸絡みが起こりやすいので、できれば1~1.5号の中通し竿( 磯用 )を用意してください。堤防やテトラなら5.3m、イカダやカセなら4.5~3.6mの短いロッドを使います。竿が長ければ張り出した根をかわしやすく、角度が付くためヤエンも入れやすくなります。逆に短ければ、取り回しが便利でイカとのやり取りも楽になります。

リール

 イカが引いたときには、ラインを送り出してしのぐため、200mほど巻ける中型のスピニングリールを使ってください。ドラグを締め過ぎるとイカが抵抗を感じて放してしまい、逆に弛いと遠くまで行き過ぎて、ヤエンを入れる時間がなくなります。ドラグの微調整が可能で、最大限まで弛めたときに、ラインがスムースに出て行くリールを選んでください。あわてずにドラグ調整できるリヤドラグ式、またはレバーブレーキ式をお薦めします。
 リールベースの上部に ケミホタル75 をテープ止めしておくと、ラインの巻き具合をチェックでき、誤って竿を踏みつけてしまうトラブルも防げます。

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ライン

 ナイロンは軟らかいのでアジの動きがよく、ジェット噴射の強烈な引きを吸収できるだけの伸びもありますが、浮きやすいのが欠点。アジの沈みやすさを優先してフロロを使う人が多いようです。
 根掛かりの面では不利ですが、アジを楽に泳がせるためには、できるだけ細いラインを使ってください。
 サーフ用の色分けされたラインを使えばアジもよく飛び、ヤエン投入の距離も計れます。ただし、あまり目立つ色だと警戒されるので、視認性を重視した蛍光ラインを使うときは、透明リーダーを20mほどつけてヤエンエリアの目印にします。リーダーは根ズレ対策にも有効ですが、ヤエンの滑りに注意して結んでください。切れ藻が引っかかってヤエンが止まることがあります。

 鈎を使わず、ラインの先端をチチワにしてアジの尾に結びつけるか、または生きエサを弱らせないよう細軸の鈎を使います。小型のアジなら伊勢尼の2~3号、大型なら6~8号。エサの動きがいい環付きチヌ鈎もよく使われます。夜釣りの場合はアジに掛けバリをつけても大丈夫ですが、明るい時間帯だとヒットが激減します。

竿受け

 置き竿にするときは竿受けが必要です。夕マズメ以降は ぎょぎょライト も必需品。アタリを視覚で知らせてくれます。さらに、ドラグを緩めてスルスルにしたラインを輪にして空き缶にかけておくと、イカが引いたときに音でも知らせてくれます。

ぎょぎょライト - 竿先の動きもしっかりチェック

腕時計

 ヤエン釣りの隠れた主役。アタリがあったらヤエン投入の時間を決めて、それまでじっくりと待つため、タイマーまたはベゼル( 回転リング )付きの腕時計が必要になります。文字盤の上に ケミホタル25 をテープで貼り付けてご使用ください。

活かしバケツ

 20リットル程度の活きエサ入れが必要です。ルミカライト6インチ( 黄色 )を入れておけば、アジが壁にぶつからず長持ちし、暗い場所でフタを開けたときのビックリ飛び出しも防げます。エアポンプ用ポケット付きでフタのできる丸形、海中でも生かせる網付きタイプが便利です。予備の電池とアジを取り出すネットもお忘れなく。

ルミカライト6インチ - 大光量で視認性バツグン

タモ

 枠の直径50~60cmクラス。網は目立たない透明がお勧めですが、目があまり細かいとヤエンが引っかかるので注意してください。枠に ケミホタル を2本、テープで巻いておくと、暗い場所でも網の位置と向き、枠の中に入ったことが判って重宝します。釣ったイカを生かしておく場合はフロート付きのスカリも用意してください。取り込む前に海面で墨を吐かせるのがコツです。

ヤエン

 様々な仕組みのヤエンが販売されていますが、地域地域に応じて開発されているため、使う場所によっては本来の性能を発揮できないことがあります。水深に応じた重さで、イカの大きさに適した長さのヤエンを準備してください。
 イカは金属の反射を嫌うので、どれも目立たないように黒く塗られています。投入のチャンスなのに見つからない、踏みつけてしまうなどのトラブルは ケミホタル にお任せ! 送り込み中のヤエンの位置もバッチリ確認できます。

エサ

 現地で釣った磯の小魚によくヒットします。イワシも好物ですが、弱りやすくて入手も難しいため、一般的にはアジを用います。アオリイカはマアジよりもマルアジの方につよい嗜好性を示します。
 アジは元気なほど喰いがよく、イカが接近すると反応してくれます。春の大型を釣るときは底狙いになるので、とくによく潜る元気なアジを用意してください。養殖のエサアジはあまり潜らないことが多く、天然アジに比べて早く口を開きます。口が開くと喰いがガタンと落ちます。弱ると潜らなくなるため、一回の釣行で20~30匹が必要ですが、弱って交換したアジを海に棄ててはいけません。イカが満腹してしまいます。

● 生きた状態で4.7kg
写真提供:フィッシングショップ福岡 / 福岡市早良区有田8-4-3
[ TEL 092-822-3051 ]

ヤエンの釣り方
解説:福重喜竿坊

アジを投入したらドラグを緩めておく。アタリがあれば、ぎょぎょライト の光が揺れてラインが出て行く。安心できる場所まで逃げたイカはエサを食べ始めるので、しばらく待ってリーリングを開始する。

イカの突然のダッシュに備えるため、竿を立てて慎重に引き寄せる。道糸が45度くらいになったらヤエン投入が可能だ。

ラインを緩め、竿を後ろに倒して道糸を掴む。追跡用の ケミホタル25 を装着したヤエンを口にくわえて準備完了。

ヤエンを道糸に通して落とし込む。水面に到着するまではラインを持ったまま。ケミホタル25 の光を目安に、イカの場所までヤエンを送り込む。

ヤエンが無事にイカまで届いたら向こうアワセ待ち。またはラインを緩めてフックが刺さるように操作する。

逆噴射をしのいで、がっちり鈎掛かりしたら取り込み開始。タモに ケミホタル を取り付けておくと、暗い海中でもタモ入れは万全だ。大型のイカほど海中で墨を吐く。下流にいるイカは警戒するので、墨の流れる方向に注意すること。

エサの取り付け

 生かしバケツから取り出したアジは、弱らないように濡れタオルでくるんで持ちます。投入時の身切れを防ぐため、鈎を刺したらラインに輪をつくり、尾ビレの付け根にかけてください。鈎を刺す位置は尾ビレから2cmの下側です。ゼイゴの下部は血が出てアジが弱りやすいので浅く刺します。ゼイゴの上側に刺すとアジが潜って行きません。
 アジの腹に空気が溜まると沈まないので、投入する前には腹部を指先でしごいて空気を抜いてやります。アジが潜らないときはオモリをつけて沈ませる方法もありますが、あまり重いと根掛かりするので、アジの大きさによって2~4Bくらいで調節してください。また、胸ビレを少し切っても、遊泳力が落ちて底のほうで泳ぐようになります。どちらも弱りやすいのは避けられません。

エサの投入

 あまり近くに入れるとヘチに寄って来るので山なりにドボンと放り込みます。
 20cm級の中アジで20~25mほど、大アジだと30m近く飛びますが、水面で叩かれて気絶することがあるので、ポイントが遠いときには無理せずに泳がせたほうがいいでしょう。
 着水したら竿をあおってラインにフケをつくり、アジが潜りやすくしします。30秒ほどしたらベールをセットし、ユルユルのドラグのままラインを張ってください。アジの動きが穂先に出ていればOK。根に入られるとフグやウツボに目を喰われるので、数分ごとにラインを巻いて確認してください。

アタリ

 イカがエサに抱きついたら、ジージーとスプールを逆転させてラインを引き出します。
 このときにドラグを締めると放されることが多いので、エサを喰う場所に行くまで少し待ってください。アオリはほかのイカにエサを奪われないよう、シモリなど障害物のある場所でエサを喰います。放っておけば根掛かりするため、まず根を切っておくことが大切です。ラインが止まってエサを喰い始めたら、イカとエサの大きさ、水温やヤエンが届くまでの時間を考慮して、ヤエン発射のタイミングを決定します。これは5分が基準になります。カンをあてにすると早まるので必ず時計を使ってください。

引き寄せ

 イカがエサに夢中になっている間に、ヤエンが届く距離まで悟られないように引き寄せます。イカが大きくてエサが小さいときは5分もあれば喰い尽くすものの、その逆のときや、活性が低いときには10分近くかかります。その間、ただ喰わすだけでは、ヤエンを入れたときに驚いて逃げてしまうので、糸を張ったり弛めたりして刺激に慣らしてください。グーっと引かれたときは、竿を下げると同時にラインをフリーにしてしのぎ、噴射を繰り返すようなら2~3分待って落ち着かせます。
 アオリイカは海中ではほぼ水平です。あまり上向きに引くと違和感を感じて放すため、竿先を水面近くまで下げて角度を浅くして引き寄せます。もしイカが放しても半分くらいはまた乗ってくるので、すぐに諦めずに数分は待ってみてください。

ヤエン発射

 イカが10~20mまで近づいて、ラインが45度くらい( 高い堤防からの場合は60~80度 )になればヤエンを投入できます。あまり遠くからだと、竿を一杯に立てても角度が緩くて届かないし、50mもあれば5分以上かかるのでタイミングを逃します。時間がきたらヤエンを口にくわえて竿を起こし、ラインを掴んでください。竿を脇に挟んでラインにヤエンをセットしたら即座に発射。空中を滑らせて水中に入るまでは左手のラインを動かさないこと。着水したらヤエンが安定するので竿を手にしても大丈夫です。

送り込み

 ヤエンを入れたらある程度の速さでリーリングするか、イカにテンションをかけてラインを張っておかないとヤエンが海底まで沈んでしまいます。もし沈み瀬や海藻に引っかかったらロストです。ヤエンの号数と重さ、イカまでの距離にもよりますが、ヤエンが届くまで30秒から3分ほどかかるので、その間、イカに気づかれないようにヤエンを近づけていくことに集中してください。

ヤエンが止まったら

 イカが遠すぎたりヤエンが重すぎたりすると、ヤエンがラインの途中でV型に吊り下がったまま進まなくなります。もし途中で止まってしまった場合、ヤエンを送るのを諦めて、イカをヤエンの場所まで引き寄せてください。スレたイカはエサを放しやすいものですが、自分が動けば、ヤエンは景色と一体化して動かないため、警戒心を抱かずにフッキングさせることができます。

アワセ

 ヤエンが到達したら殆どのイカは驚いて走ります。そのまま逃げ出すことも、向こうアワセで掛かることもあります。少し待ってみてなにも起こらない場合は、張っていたラインをフッと弛めてから張りなおすと、掛け鈎が跳ね上がってフッキングします。グイグイと小刻みなアタリが伝わってきたら、竿を立てて常に一定のテンションをかけたまま、弾性を利用して足元まで寄せてください。

取り込み

 テンションをかけたままにするため、タモを持って行くのではなくイカをタモ内に誘導してください。足の方向からすくうと驚いて抵抗しますが、死角になっている胴の先端から取り込めばジェット噴射して自分から入ってくれます。イカの胴体は袋状なので海水もいっしょに持ち上げることになります。これが大変重いため2kg以上の大型を狙うときはギャフを使った方が確実です。

福重喜竿坊

[ プロフィール ]
ケミホタルフィールドスタッフ。
大阪府茨木市在住。日本海側の舞鶴湾、内浦湾を中心に年間80日以上もイカ釣りに出撃。泳がせからエギングまでイカ釣りなら何でもござれのイカフリークである。

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アジの濃いのは苦手

 アオリイカは基本的に生きて動いているエサが大好きです。( 養殖が難しいのもこの生きエサの確保に手間がかかるため )どうしても生きアジを入手できない場合、タコやウツボがいない地域であれば死にアジでも釣れますが、自分から動いてくれないので探れる範囲が狭く、釣果は生きエサの半分以下になります。イカは動いているものをエサだと認識するので、底に沈めただけではなかなか喰ってくれません。いったん底まで沈めたら竿を大きくあおってアジを浮かせ、ゆっくりと沈めて誘ってください。
 エサに冷凍アジを使う場合は、なんとか抱きつかすことができたとしても、海水で解凍したアジだとすぐに放してしまいます。
 川魚はミネラルが少ない淡水中で、体内の塩分を維持できるように頑張っています。逆に海水の魚は、体内から塩分を排出するのに多くのエネルギーを消費します。死んだアジは浸透圧を調整できないため、海水で解凍すると体内に塩分が浸み込みます。浸透圧調整が苦手なアオリイカは塩分の濃いエサを嫌うので、冷凍アジは自然解凍か淡水で解凍してください。それでもあまり長い時間海水に浸すと塩っぱくなるので注意が必要です。