07 イカ釣り実践編 その4

夏の夜の風物詩「 メトイカ釣り 」
解説:池田健吾

 今や空前のイカ釣りブーム。そのゲーム性と手軽さにひかれ多くの釣り人が楽しんでいるが、食味もさらなる人気に拍車を掛けていることは言うまでもない。
 全国的に見ても一番人気はやはりアオリイカ。「 イカの王様 」と言われるだけあってサイズもデカく、釣り味、食味ともに抜群だ。ただ、食味の点でさらに上を行くイカがいるのをご存じだろうか?
 アオリイカが「 王様 」ならこのイカは「 女王 」とでも言おうか。関東でも三浦半島の先端、三崎港だけというごく限られた地域で昔からひっそり狙われてきたイカだ。当地での呼び名は「 メトイカ 」。目が光るイカ「 目灯イカ 」から来たようだが、数年前まではこの名前を出しても、関東はおろか三崎港周辺でしか通用しなかった。それがグルメブームに乗り各方面に紹介されてから一躍有名に。降って沸いたかのように訪れたイカ釣りブームにより、脚光を浴びるようになった。今では東京湾、相模湾でも欠かすことの出来ない船釣りの人気ターゲットにまで登りつめた。
 そう、彼女の名は今じゃ「 マルイカ 」と呼ばれている標準和名「 ケンサキイカ 」だ。
 三崎港周辺では昔からこのメトイカを狙う独特の釣り方がある。長竿の先に ぎょぎょライト を付け、独特のメトヅノをたくさんぶら下げた仕掛けでゆっくり上下に誘いを掛けるとやがてフワッとイカが触手で触れるアタリが現れる。すかさずバシッとアワセを入れるとグィグィと独特の引きが伝わってくる。

 シーズンともなると岸壁にはこのイカの魅力にひかれたファンがズラリと並び、まるで宝石を散りばめたかのように ぎょぎょライト の光がたくさん揺れる。夏の夜の風物詩、このメトイカ釣りを紹介しよう。この釣りは歴史が古く、長らく当地で営業するエサ店店主に聞いても「 自分が子供の頃からやっていたから、少なくても50年以上じゃないか 」と言う。
 特徴は堤防釣りにしては異例の長竿を使うことと仕掛けにある。竿は昔からアユ釣り用の竿を使用する。長さは8~9m。仕掛けの全長が長いためと、イカが岸壁までは寄って来ないからだ。
 仕掛けは地元でメトヅノと呼ばれる小さなイカヅノをサビキ状に繋げたもので、マルイカ釣り用のスッテの原型はここにあると言われている。

 元々はカリンなどの木を削り作る職人が三崎にはいたが、量産できないのと、今ではプラスチック製が市販されるようになり作れる後継者もいなくなってしまった。木製のものに「 ガス糸 」と呼ばれるカラフルな木綿糸を巻いたものが浮力があって、乗りも良く、私を含め常連氏達は何十年も前のものを大事に使っているが、今では各社から市販されるようになったマルイカスッテを使うファンも増えた。
 仕掛けの上部には集魚灯として ケミホタル37 を付ける。オモリはなるべく仕掛けの浮力を殺さないように軽めの2~3号を使用する。釣り方は竿とほぼ同じ長さにした仕掛けを沖目一杯に振り込み、竿先を岸壁に座ったときの目線の高さから水面までをゆっくり上下に動かす。このスピードは動いているかいないかわからない位。アタリは軽く竿先を押さえ込む程度のものから、竿を下げていく時に糸フケができるものなど千差万別。どの場合でも即座に鋭くアワセる。ハリ掛かりしたイカは潮を吐きながら抵抗するので小型でも釣り味が楽しめる。

 この釣り発祥の地である三崎港は潮通しがとてもよく、足元から水深があり常夜灯があちこちにあることからメトイカが寄りやすい条件が揃っているが、他にもこの様な条件を満たす堤防は各地にある。元々メトイカは暖かい海ならどこにでもいるので、条件が揃っているポイントなら狙ってみる価値はありそうだ。
 メトイカの魅力は何と言っても食味。甘味といい、食感といい、濃厚な味といいどれを取っても王様アオリイカをしのぐ。釣期は5月から8月。蒸し暑い真夏の夜が最盛期。夕涼みがてらのんびり出かけるにも最適なメトイカ釣り。みなさんもぜひ挑戦して美味しいメトイカをたくさん釣ってみてください。

池田健吾

[ プロフィール ]
ケミホタルフィールドスタッフ。
東京都大田区在住。3歳で竿を持ち6歳で船釣りデビュー。10歳で相模湾の船宿に通うようになり、高校卒業と同時にプロの道に進んだ。1975年生まれにして年間200日の場数を踏んだベテランである。

夜イカ釣りの概要
解説:岡本光央

 船の夜イカ釣りで威力を発揮するのが仕掛上部に配する発光体。関東周辺のスルメイカやムラサキイカ( 標準和名アカイカ )釣りには必需品であり、一般的には「 必要は無い 」とされる伊豆沖のアカイカ( 標準和名ケンサキイカ )やヤリイカの夜釣りでも、状況により顕著な効果が見られる。本項では上記4種の「 夜イカ釣り 」をセレクト。関東圏での概要と発光体の使い分けを解説してゆく。
 関東地区では、県により遊漁の夜釣りに関する規制が異なる。このため、現状夜イカ釣りが可能なのは茨城県と静岡県である。

スルメイカ

 世間一般的に知られる「 イカの夜釣り 」はこのイカだが、関東では日中の釣りがメイン。夜釣りは静岡県沼津~西伊豆地区と、東伊豆富戸、茨城県各港から、夏場~秋口の比較的短い期間に行われる。
 夜間・日中共に光の強い点滅式ライトが有効。水中集魚ライトM型、C型 がお勧めだ。

ルミコイカ - イカが最も好むと云われる500nmの波長を持つルミコは、イカ釣りに欠かせないアイテム。抜群のノリを約束してくれます。

ムラサキイカ

 茨城県では長きに渡り「 ゴウドウイカ 」の名で夜釣りが行われて来たが、現在媒体の表記名は「 ムラサキイカ 」に統一された。
 生食での評価は今ひとつだが、総菜加工用に大量に流通する重要産業種。日中は深海に生息するが、夜間は海面近くまで浮上。
 「 本場 」茨城では鉛スッテ+浮きスッテ仕掛( 下図 )で秋~冬に、05年より乗合がスタートした駿河湾は浮きスッテのイカサビキ( 胴突式 )で夏場に釣る。
 大型は2~3㎏以上になり、「 引き 」が楽しめる。スルメイカ同様、強い光の点滅式ライトが必需品。水中集魚ライトM型、C型 がお勧めだ。

水中集魚ライト - 強力な点滅光でイカを挑発!

アカイカ

 標準和名ケンサキイカを伊豆ではアカイカと称する。伊豆諸島の重要産業種であり、遊漁は釣場限定で許可される。晩春~初夏が盛期。浮きスッテのイカサビキが基本だが、乗り渋りには下部に餌巻きスッテを配す。
 発光体を使用する場合は、前出2種のイカよりも弱めのアイテムをセレクト。ピカピカドンドン + ケミホタル 、若しくは ケミホタル75~100サイズ を仕掛上部にセットする。但し、サメが回遊している場合は速やかに取り外す配慮を。

ケミホタル - 豊富なラインナップから適切なサイズをご使用ください。

ヤリイカ

 12月~1月中旬、東伊豆網代~富戸地区を中心に、年により南伊豆地区でも。
 イカサビキは日中と同じ物を使用するが、水深は数十mと浅く、錘が軽量となる。発光体に関してはアカイカに準ずる。

ピカピカドンドン - ゆらゆら光ってどんどん釣れる!

岡本光央

[ プロフィール ]
ケミホタルフィールドスタッフ。
埼玉県川口市在住。ディープマスターの異名を持つ我が国深海釣りの第一人者。趣味は料理と魚体写真の収集。執筆歴20年を超すフィッシングライターでもある。

アオリイカは満月釣法

 一般にイカは満月前後には釣れないとされますが、アオリイカは定置網でもエギ漁でも半月から満月に向かうときによく獲れます。
 一日でいえば朝、東の空が明るくなり始める時間帯、または夕暮れからの時間帯に集中して釣れることから、アオリイカが好んで捕食する一定の明るさがあることが判ります。新月だとマズメの短い時間に釣れても、暗闇になってからはほとんど釣れません。視覚で獲物を捕らえて攻撃する以上、獲物を見るための光量が必要だからです。また、サイトフィッシングで釣れるとはいえ、明るい日ほど釣果がよいわけではありません。
 ベイトの動きが鈍る夜間、ベイトからすれば暗くて敵が見えず、アオリイカには見えているバランスのいい照度。それが満月前の明るさのようです。外灯がある場所では光の境目を狙ってみてください。

 摂食活動は月齢の影響を受けます。月齢=潮の大きさではありません。生物の月周リズムは基本的に光のリズムに同期しています。月光量の変化と並行して、潮の干満という現象が起きるのでつい混同しがちですが、潮の大きさではなく、光量の変化に影響を受けて行動します。
 例外的にウナギが新月の夜に産卵するものの、フグやウミガメ、サンゴなどのほか、淡水の生物でさえ、明るい満月の夜に産卵のピークを迎えます。満月に向けてエネルギーが蓄積され、過ぎると沈静化に向かうため、同じ照度であっても下弦の月の活性は低くなります。

投げ釣り
解説:菅原隆

ハンマーフロートで100m先のイカを攻める

 初冬からカレイを追いかけて、6月も後半になると北海道ではカレイシーズンも一段落する。多少早いが夏枯れ状態になるのだ。そしてその時期から待ちに待った夜釣りがメインになり、ソイや真アナゴ、スルメイカのシーズンに突入する。
 私の釣りは遠投一本槍で、どちらかというと夜釣りは苦手なほうだ。そのため必然的にターゲットは平物を狙うことが多かった。ところが、大ヒット商品となった ハンマーフロート が発売されてからというもの、苦手としていたソイの釣果が大幅にアップ! おかげで夜釣りが苦にならなくなった。
 さらに昨年まで試行錯誤を繰り返しテストしていたイカバージョンの ハンマーフロートF型 の試作品でイカ釣りを重ねるたびに釣果がアップ。完成品が出回った今では、すっかりイカ釣りにはまっている。

 当初、試作品を手渡された頃は、投げ専門のタックルしか持っていなかったため、現場では毎回、四苦八苦した。と言うのも、イカが多少は乗るが、投げ専門のタックルではどうにもバランスが悪いのだ。そこで ハンマーフロートF型 に合わせたタックルを用意し、久しぶりに投げ竿を磯竿に持ち替えることにした。同時にテーマを決めて、それを目標にした。

 そのイカバージョン秘策のキーワードは「 遠投、沈める、誘う 」の3つだ。
 まず第一は ハンマーフロート で飛ばすこと。第二はテーラー仕掛けを素早く沈めること。しかしこれが多少厄介だった。遠投するためには必ず力糸を使う。さらに道糸はPEラインのため、風と波に弱い。風が吹くと仕掛けは軽いし、力糸は太く、PEラインは風に引っ張られて沈まないのだ。テーラー仕掛けが沈まなければ誘うことも出来ないし、沈まない以上、当然イカは乗ってこない。
 そこで今回、ロッドは遠投用のホリデー磯450XT4号PTS。リールはエアレックスC3000。それにデュラAR-C1.2号を巻く。さらにテーラーを遠投用に改造、ナマリで重くして、イカ釣りのメッカ積丹半島で再チャレンジとなった。この日は風が良かったこともあり、100m前後の場所を攻める。着水して1~2回も誘うと「 コッ、コッ 」と90%の確率で明確なアタリがでる。「 グッ 」と重くなったところで大きく合わせると、スルメが乗って4.5mの磯竿が大きく弧を描く。今までの「 掛かる 」から「 掛ける 」に変わって面白さは倍増する。

 釣り方は簡単で、先ずフルキャストするが、タナは5mと深めにセットする。これは一定のタナを流すのではなく、ウキから5mの間をリフト&フォールで誘うためだ。つまり ハンマーフロート が着水してからテーラーが沈み、沈みきったところでそのテーラーを再度ウキのところまで引き上げる。それを何度も繰り返すのだ。イカの回遊に当たれば百発百中の優れ技である。ただし100m前後と遠くて明かりが見えにくいため、ぎょぎょライト はダブル付けが無難だろう。この日の釣果は私が94杯。同行した友人も37杯と船釣りに引けを取らない釣果だった。おかげで最近はこの釣りにすっかりはまっている。ただ流すだけの釣りより、遠投して探る釣りの方が格段に釣果が倍増する事うけあいだ。またもう一つの楽しみが、釣ったイカを一部生かしたまま持って帰ること。それをお造りにして一杯やると絶品この上ない。これは釣り人の特権だ。ぜひお試しあれ。

※ ハンマーフロートについては Gear-Lab( ギアラボ )のサイトをご覧ください。

ぎょぎょライト - 夜釣りでの置き竿釣りに欠かせない竿先ライト。暗闇の中で、竿先に伝わる魚のアタリを光でお知らせします。ワンタッチテープ取付け式のぎょぎょライトです。

菅原隆

[ プロフィール ]
ケミホタルフィールドスタッフ。
北海道千歳市在住。全日本サーフキャスティング連盟北海道協会会長。世界大会出場経験もある超遠投派釣師。日本有数の遠投技術を持つサーフ界のトップアスリートである。

イカ墨の秘密

 イカは敵から襲われると墨を噴出し、その反動で逃げ出します。噴出のパワーは意外につよく、アオリイカでも空中を数メートルもジャンプすることがあります。あとに残された墨はあまり広がらないでイカの分身の役目を果たすほか、豊富に含まれるアミノ酸の匂いでも敵を引きつけます。この墨は血液と同じく、自分で作った栄養成分( ※註 )なので、あまり何発も吐いたイカは疲弊して死んでしまいます。
 墨には粘性があり、もし吸い込むと吐いたイカ自身もエラが塞がれて危険です。狭い場所で墨を吐かれると全滅するため、漁師さんは流れのある海中で吐かせてからイケスに取り込みます。
 墨の成分に毒性はありませんが、同種のイカは危険を感じて身を潜めてしまいます。逆に、チヌなどの稚魚は栄養分を求めて寄ってきます。この集魚効果に着目したのがフィリピンの漁師さん。イカ墨をビニール袋に入れて小さな穴をあけ、流れ出した匂いでマグロを集めて獲る漁法を開発しました。
 イカの天敵であるクエやタチウオは海の底から襲いかかります。夜間でも月明かりがあれば、黒い墨でもダミー効果を発揮できるでしょう。しかしイカ本体が光っている場合、暗い海中で墨を吐いてもダミー効果を得ることはできません。そのため、発光イカであるヒカリダンゴイカやギンオビイカは発光する液を吐いて敵の眼を欺くそうです。

[ 註 ] グルタミン酸・チロシン・メチオニン・プロリン・セリンなど。抗菌作用のあるリゾチームが含まれているため保存性も高い。