04 マダイ釣り実践編 その2

小里哲也

 小里さんは徳島県釣連盟の初代名人。全国区クラスのトーナメントを席巻する阿波釣法の継承者であり伝道師である。阿波釣法には、竿は「 利き腕で持て 」、リールは「 反対側の手で巻け 」、マキエは「 小量を間断なく 」、ウキは「 止めながら流す 」、取り込みは「 頭の方向へ抜き上げる 」などのルールがある。現在ではごく当たり前となった磯釣りの基本ワザだが、これを始めたのが阿波釣法である。Bや2Bなど散弾を利用したナマリや円錐ウキ、スピニングリールのレバーブレーキ、マキ餌ビシャクや水中ウキさえも徳島から発生したものだ。ケミホタルクラブ誌では、ジャパンカップ磯グレ選手権を4度も制した伝説の釣り名人に磯マダイの手ほどきをお願いした。

小里哲也の磯マダイ
解説:小里哲也

本命が釣れない。エサ取りもいないときがマダイ釣りのチャンス。

 グレ、チヌ釣りをしていて水温低下や潮が悪くなれば、本命の魚は釣れなくなる。エサ取りもサシエを取らなくなるだろう。このときがチャンスで、マキエは広く沖まで流れ出して沖の深みにいるマダイをおびき出してくれる。マダイは底にいる魚なので、水面の潮に影響をあまり受けないのだ。また、どん欲な魚なのでマキエに付くと、他の魚を押しのけてマキエを食う。

 マダイは低水温に強くエサ取りがいなくなって、グレやチヌが食ってこないときにもアタリがでる。水温が低下してサシエが残るような場合は、底深くまでマキエが効くのでマダイ釣りのチャンスになる。
 初夏には水温も高くなり動きも活発になってくるが、反面エサ取りが大量に増えて釣りにくくなる。そのため夜釣りが盛んになる。ここでは「 ケミホタル 」「 からまんホタル 」「 ケミブライトフック金マダイ 」を付ければ、仕掛け回収の際やエサ付けに威力を発揮する。
 また、サシエが光れば食い込みは格段によくなる。この他にバッカンの中や危険な場所へ ケミホタル を置いておけば安全に釣りが出来る。

 マダイは1メートル以上に成長する魚だが、磯のゲームフィッシュとして狙うときには、グレ釣りのタックルを流用すればいい。
 ハリはグレバリの8~10号。食い渋れば「 ケミブラットフック金マダイ9号 」を使用する。マダイは歯やアゴが頑強なので太軸のハリを使うことが望ましい。

ウキとオモリの選び方

 ウキは潮に乗せて遠くまで流していくので、流れに乗りやすい円錐ウキが有利である。
 ウキ下は竿2~3本が標準なので、ウキはオモリ負荷1~3号のものを状況に応じて使い分ける。
 ウキやオモリが小さすぎると、底へ沈む間に沖へ流されてしまって役に立たないし、サシエとマキエが一致している時間も短くなる。
 オモリでサシエを早く沈め、ハリスの部分は、ゆっくり降ろすことでサシエをアピールできる。

マキエの極意

 マダイ釣りのマキエはグレ・チヌ釣りのマキエとは一線を画する必要がある。グレ釣りのマキエは間断なく小量で、それに仕掛けを合わせて流していく。ところがマダイ釣りでは一度に多くのマキエを入れ、それに仕掛けを合わせて流していく。  エサ取りが食べ残したマキエが沖へ流れ出し、マダイは磯際へ寄って来るという寸法になる。
 それでもエサ取り対策は必要で、磯際のよどみへエサ取りを引きつけることを忘れてはならない。当たり前のことだが「 マキエの極意 」は釣りたいポイントへ、マキエを確実に沈めることだ。どこへ撒けば狙うポイントへ沈むかをあらかじめ予測し、そこへマキエが沈むように撒き、仕掛けを入れて流していくことである。
 オキアミは一日分最低でも12キロは用意する。生オキアミは沈みも早く深タナまで届く。また、匂いで誘い出すことも可能だ。しかし、身が柔らかくエサ取りに取られやすい欠点もある。
 ボイルは沈みが遅く、魚のタナが浅くなることもある。サシエはエサ取りに取られにくい。欠点は深タナへ沈みにくいことだ。そこでマキエには生オキアミを使い、サシエにはボイルを使えば理想的な展開になるだろう。配合エサは沈みの早いチヌ用の、サナギが混じった製品を使っている。量はオキアミ6キロに配合エサ1袋の割合でいい。
 ポイントが磯より遠く離れるほど、サシエとマキエの一致は難しくなる。そのため水深があり、潮流が速いときほどマキエは潮上へ撒くことになる。マキエはシャクに3~4杯を広げて入れ、しばらくしてから仕掛けを入れる。マキエをした直後に仕掛けを入れると、オモリが重いのでマキエの帯を突き抜けるのでよくない。
 仕掛けを回収する前に先のマキエを撒いて、仕掛けを入れウキが立ってから追い打ちのマキエをしてもいい。このとき流れの速さとウキ下をかんがみ、撒く位置は後方へずらすのがコツだ。どうしてもマキエとサシエの一致が不可能なら、エサ取りのいない沖へ仕掛けを入れ、そこへマキエが流れていくように工夫すればいいだろう。
 無精なようだが意外に食ってくることもある。

エサ取りがいるとき

 マキエはシャクを切るようにすれば、広く撒けるのでエサ取りを多く集めやすい。
 エサ取りは磯際の流れの溜まりへ集め、沖へマダイ用のマキエを入れる。このとき手前と沖の間に点々とマキエをこぼしてはいけない。
 これをエサ取りは伝って沖へ出ていくことになる。
 マダイはマキエを食うとき激しく上下に反転するので、エサ取りやグレはおびえていなくなることが多い。これを目安に身構えておけば遅れを取ることも少ないだろう。
 初夏にコサバやイワシなどが回遊してくれば、どうしても釣りが出来ないこともある。そんなときにはこれらを何匹か釣り上げてサシエにしてみよう。( 弱らせてからマキエにもする )貪欲な大型マダイは生きエサに食ってくることもあるのでびっくりさせられる。

からまんホタル - 夜釣りに便利なウキ止めマーカー。暗くて仕掛けが見にくいときにご使用ください。

ン万円の竿も
使い方次第ではただの棒!
解説:小里哲也

 磯竿の最高級品は優に10万円を越える。安価な竿と素材は同じカーボンなのに、どうしてこれだけ価格差があるのだろう。高級な竿は軽くて反発力も強く、魚の引きを早く止めてくれる。走りが止まれば、そのまま引き上げていけば魚を寄せられる。しかし反発力が強すぎてアワセ切れを起こすことが度々ある。
 安価な竿は反発力が劣るので、余分な力で魚を止めたり持ち上げたりする必要がある。しかし粘りがあるので強いアワセをしてもハリスは切れにくい。両者の特性を知り使い方を間違わなければどちらもマダイ釣りに対処できる。
 どうすれば竿の性能を100パーセント使うことが出来るのだろうか。それには魚を止めるときに竿尻を魚に向け、道糸を出さず矯めきることで真価を発揮する。竿の全長をバネとして利用すれば竿はゴムのように魚の力を吸収し弱らせてくれる。竿の角度が半分の90度以下になれば、竿の値打ちも半分になる。最後は魚に穂先を向けて、ハリスを切られたとしょう。竿の反発力は一切無くなるのでゼロ円の竿ということになる。

サシエはどのようにつけるか

 エサ取りが多いときには大バリに替えて、オキアミをハリいっぱいに輪刺しにすれば取られにくい。
 エサ取りが少ない場合は目立つように大きなサシエをつける。オキアミ2匹を抱き合わせにしてもいいだろう。また、潮流が速いときはオキアミの尻尾を切ってハリにさせば仕掛けが回転することも少ない。サシエはハリ先が見えていても関係なく食ってくる。
 サシエが目立つように ケミブライトフックの金マダイか金チヌ を好んで使っている。ハリ元に蛍光塗料が付いているので、オキアミが光りサシエを魚にアピール出来るからだ。

ケミブライトフック - 魚の喰いが違う! ケミブライトフックは蓄光素材で光る鈎です。集魚効果はもちろんのこと、暗い場所での釣りでも危険な鈎先が見やすく安全です。

道糸はフリーで送る
解説:小里哲也

 アタリはウキがかき消すように沈み、竿を引ったくるように締め込む。レバーブレーキ付きリールにはドラグがついている機種もあるが、マダイは力の掛かった反対方向へ逃げる習性があるので、ドラグで道糸を送ればマダイは底へ底へと逃げ込んでしまう。
 これではシモリでハリスがすり切れたり、水圧が掛かって取り込みが困難になる。また、逆転で走らせると、急激なハンドルの回転で指を負傷する危険もある。そこでベールを起こしたままフリーで道糸を送れば、水平に沖へ走ってくれるので取り込みは楽になる。70センチ以上の大型になると3号ハリスも一瞬で切っていくほど力強い走りをする。これをかわすには道糸をフリーで送るのが最善の方法だ。
 アワセはベールのスプールを起こしたまま、左手でスプール自体を押さえて入れる。もし2度目に走り出したら左手を離せばいいだろう。
 アワセをすれば必ずと言っていいほど、一直線に沖の深みへ向かって疾走する。力任せに止めようとすればハリスはいとも簡単に引きちぎられる。
 一発目の突進は青物にも匹敵するので細ハリスでは太刀打ちできない。
 いったんは走らせてもスピードが鈍れば、竿の弾力で止められるが、大物なら二度三度と沖へ走る。その度に走る距離と力は弱くなり、最後は首を振るだけで鋭い動きはしなくなる。足元の磯際へ寄せればシモリの際を走るがシモリへ入ることはない。
 重量がある上にハリスも長いのでなかなか浮かせることは出来ないが、慎重にやり取りすれば切られることは少ないだろう。

竿は水平に構える

 沖へ走り出したら少しでも底へ逃げないように、竿は海と水平に構えて道糸を出す。走りが止まりかけたら、利き足を半歩後ろへ下げ、腰に竿尻を当て水平に180度後ろへ回す。
 こうすることでマダイに竿尻を向けることになり、竿の弾力を100パーセント生かせるのだ。大物とのやり取りは足腰を安定させていないと力負けする。また、長期戦になって両腕だけで対処すれば、体力を消耗するので磯際へ寄ってきたときには、疲れ果て思わぬ不覚を取ってしまう。そのためにも沖では腰でやり取りして体力を温存し、手前に来たら両腕を伸ばして全力で取り込むことだ。
 腰を後ろへ回した状態でリールを巻けば、竿の弾力は常に生かされているので、不意の突っ込みにもハリスが切れることは少ない。ポンピングすると竿先が魚の方向を向くため、ハリスは張り切れやすいし、一瞬の間が出来てマダイは頭を沖へ向け再び走り出す。
 一定のテンションを与えたままリールをゴリ巻きすれば、魚の頭を手前に向けたまま寄せることが出来る。魚はバックが苦手なので常に自分の側へ頭を向けておけば強烈に引くことはない。
 磯のフカセ釣りで狙うマダイ釣りは、道糸もハリスも細くギリギリの状態で勝負している。大物とのやり取りで道糸の結び目は今にも切れかかっている。ハリスは歯やシモリで小さな傷が付いているかもしれない。
 そこで1匹釣ると道糸は10メートルほど捨て、ハリスは新しく張り替える。こうすることで次のマダイとのやり取りに自信を持って望める。トーナメントのときにはラインに対して絶対の信頼が欲しいため2時間で取り替えている。

1匹だけで満足しない

 マダイは群れで行動しているので、1匹釣っても続けてアタリがあることが多い。これを夫婦で行動していると言われている。釣られた魚に寄り添うように、他の魚が付いてくるので夫婦といっているようだ。しかし、釣られた魚が苦し紛れにオキアミを吐き出せば、仲間はこれをむさぼり食い、釣られている魚には見向きもしなくなる。( 注:マダイ、チヌ、イサギなどは苦しくなれば食ったマキエを吐き出す。グレなど口の小さい魚は吐き出さない )このようなときにはすぐにマキエをして、仕掛けを入れれば食ってくる。