08 特別企画

オキアミ大研究

地球一の資源量

 オキアミの仲間は世界に85種、日本近海には45種が分布しています。釣りに使われるのは南極周辺で獲れるナンキョクオキアミという種類で、総資源量は数億トンから10億トン。これはほぼ全世界のお米の生産量に匹敵し、単一種としては地球上最大の生物量だそうです。キングジョージアなど主要漁場での資源量は推定5,400万トン、漁獲しているのはそのうちの12万トン( 0.022% )程度です。
 ナンキョクオキアミの体重は1g~2gで全長は最大6cmほど。南半球での夏にあたる1~3月に2000~1万個の卵を複数回産卵します。寿命は意外に長くて7~10年ですが、栄養が不足すると脱皮して体を小さくするため、大きいからといって年齢が上とは限りません。
 もともとオキアミは1973年以降になって人間用の食料資源として漁獲されたものですが、体内の酵素による自己消化が速くて加工が難しいため、釣りエサに転用されることになりました。冷凍保存できるのでオールシーズン使え、安価なのでマキ餌にもできる。アミノ酸が豊富なため喰いがよく、匂い成分だけでも魚を寄せるほど集魚効果が高いなどのメリットがあります。
 最初は磯のメジナ釣りで使われて爆発的な効果を発揮し、次にヒラマサでブームになり、さらに沖のマダイ釣りでの入れ喰いが評判を呼びました。
 伝統的な釣法に比べて歴史の浅いオキアミですが、その出現は多くの釣りシーンに革命的な変化を起こしました。

白手

 南極での秋~冬にあたる4~6月に漁獲されるオキアミは白手と呼ばれます。水温が低下すると常食のプランクトンが減って食性が変わり、運動量が減ると同時に体の色素も抜けて白っぽくなります。この時期のオキアミは身が引き締まって変質しにくく、鈎持ちがよいのでおもにサシエに使用されます。

赤手

 ナンキョクオキアミは産卵前期の12月から産卵末期の3月にかけて雌雄とも体が赤く染まってきます。この時期に捕獲されたオキアミはおもに飼料として消費されるほか、赤色色素のアスタキサンチンが多量に含まれているため、養殖マダイや金魚の色上げに使われます。鈎持ちは劣りますが喰いの良さは変わらないので一部はマキエにも使われます。抱卵したオキアミはマダイ釣りの特効エサでもあります。

サイズと船内加工

 オキアミのブロックにはS・M・Lなどのサイズがありますが、これは大まかな目安であり、メーカー間で統一された規格ではありません。サイズは原反におもに含まれるオキアミの大きさで決まります。
 オキアミは網揚げされた直後から急激な劣化が始まるため、いかに素早く凍結するかが品質の決め手になります。漁獲してそのまま船内の凍結庫で冷凍されたものが「 生 」。
 網揚げしてすぐ、コンベア上に広げられたオキアミに、船内で海水から淡水化した熱湯をシャワー状に吹き付けて湯通しし、さらに冷凍したものが「 ボイル 」です。この加工は日本船以外に、日本の技術者が乗った外国籍のチャーター船でも可能です。( 生の冷凍オキアミを荷揚げした後に、ボイルした製品もあります )船内で加工されたオキアミはすべて原反の状態で国内に陸揚げされます。狭くて揺れる船内で選別やパック詰めが行われることはありません。ツケ餌のオキアミが冷凍なのにガチガチに凍っていないのは不凍加工されているからですが、この加工の行程で極端に大きさが違うものや傷んだものが取り除かれます。

光るオキアミ

 ナンキョクオキアミは、ジャンボアミ( ツノナシオキアミ )やサクラエビと同じく発光する生物です。複眼の付け根から体側にかけてレンズと反射鏡を備えた発光器があり、緑黄色( 510nm )の光を2~3秒間ずつ点滅して発生します。発光物質は複数が確認されていますが、渦鞭毛藻という発光性の植物プランクトンを捕食することで発光物質を体内に取り込むとされます。

上の画像は著作権保有者であるドイツ人海洋生物学者 Uwe Kils 氏の許可を得て、フリー百科事典「 ウィキペディア 」から転載しました。
Professor em. Dr. Uwe Kils Rutgers The State University of New Jersey

黒変対策とボイル

 オキアミは死ぬと内臓に含まれている消化酵素によって自己消化をはじめます。分解が進むと身が崩れて鈎に刺しにくくなるだけでなく、活きエサが大好きなマダイの喰いにも影響を与えるため、できるだけ低温にして酵素の活性を抑え、必要な量だけを解凍して使います。
 解凍後の場合は海水につけて酸素を絶つと黒変を抑えることができます。このとき淡水だと黒変が進みやすいので注意してください。また、直射日光にあたると低温でも黒変するので、フタ付きのバッカンに入れて物影に置くといいでしょう。
 ボイルは黒変が起こらず腐敗しにくいのですが、南極の船上で良質の材料に手間をかけて加工されるのでやや高価になります。魚の喰いも集魚効果のある液汁が残っていないだけ不利だとされます。マキ餌にすると比重が軽いため遠投がききにくく、着水してからも表層で風に流されることがあります。
 しかし、ボイルはこの沈降速度の遅さがメリットです。水平に長く漂ってくれるのでマキ餌が遠くまで効きやすく、魚を浮かせて喰わせる釣法に向いています。また硬くてエサ盗りにつよいわりに消化がよく、魚が満腹になって喰いが止まる現象も起きにくいとされます。
遠投がメインのカゴ釣りではハリ持ちのいいボイルをサシ餌にして、カゴにも同じボイルを使いますが、「 くわせオキアミ 」や「 生イキくん 」などハリ持ち加工を施したオキアミをサシ餌にして、カゴには生オキアミを詰める方法もあります。

■ オキアミ生とボイルの比較 ■
ボイル
価格 安価 1.2~1.4倍ほど高価
喰い かなりよい 生よりやや劣る
ハリ持ち 鈎から外れやすい 硬くて長持ち
エサ盗り 取られやすい ※1 取られにくい
沈降速度 秒あたり3~5cm 1秒に1cm程度(水分で変動) ※2
コマセ まとまりやすく遠投しやすい バラケやすく風に弱い
視認性 あまりよくない 白いのでよく見える
腐敗 傷みやすくすぐに匂う 傷みにくい ※3
※1:逆に、集魚力を利用してマキ餌ワークでかわすことも可能。
※2:海水に浸けて解凍すれば沈む。解凍後水分を絞って使えば浮く。
※3:クーラー保存で翌日も使えるので離島遠征も可能。バッカンを洗うのも簡単。

● エビとオキアミの違い
例外もありますが、エビの成体が海底に脚をつけて生活するのに対して、オキアミは一生を浮遊して過ごします。エビは餌をついばむためのハサミを持ちますが、濾過摂食をするオキアミにハサミはありません。オキアミの比重は海水と同程度で、胸脚とエラが露出して表面積が大きいため、潮流に乗って集団で移動することが可能です。