01 アジの分類

 魚類およそ25,000種のうち、硬骨魚綱スズキ目の魚が約9,300種と大多数を占めており、地球に存在する全脊椎動物の中で最大のファミリーを構成しています。
 スズキ目アジ科の魚類は約7,000万年前に発生しました。先祖はイトヒキアジのように扁平な体型でしたが、進化の過程で多様性を増し、現在ではブリやカンパチ、シマアジなど世界中に150種類以上が棲息しています。
 マアジ属の魚は15種類いて、アフリカ周辺からオセアニア、南米、大西洋まで分布していますが、日本近海に棲息するのはマアジ一種類だけです。
 たった一種類とはいえその数は膨大であり、日本人にとってもっとも身近な魚であることは間違いありません。船からでも堤防からでも容易に釣れるものの、技術によって釣果には歴然とした差がつきます。

マアジの仲間

メアジ属

● メアジ
やや南方系で、マアジよりも体高があって眼が大きく、体側に黄色い縦縞があることが多い。エラブタを広げると、ネクタイの近くにツノのような肉質の突起があるので見分けは難しくない。よく見るとエラにある黒点部分の縁がへこんでいる。あまり馴染みがないため価格は安いが、鮮度と処理次第ではキアジと同等の食味が得られる。

ムロアジ属

● ムロアジ
生きているうちは黄色い縦縞が見えることがある。側線のカーブが緩く、稜鱗も体の後半にしかないが、マアジも大型になると測線のカーブがムロアジと似てくるので間違いやすい。小離鰭を確認するか、または尾ビレの上半分が黄色いことで判別する。アオアジと呼ばれることが多い。

● マルアジ
ムロアジ属では資源量が一番多く、マアジに次ぐ漁獲量がある。外見はマアジとよく似ているが、マアジほど体が扁平ではなく筒のように丸くてほっそりしている。死ぬと体色が青くなるため、これもアオアジと呼ばれることが多い。元気がいいので泳がせ釣りのエサにもってこいである。

● アカアジ
関西ではマアジをアカアジと呼ぶことがあるが、本家のアカアジはマアジとよく似た体型ながら尾ビレと胸ビレが赤色をしている。ムロアジ属としては血合いが少なく、旬の時期の刺身は絶品とされる。千葉県外房以南の深場に分布。資源量は少ない。

● オアカムロ
フラッシャーサビキでは定番のゲスト。腰の部分から尾ビレ全体まで赤く、ときおり体側にマイワシのような黒い斑点がでることがある。血合い部分が大きく、雑魚として扱われるため価格は安い。食味についての評価は大きく分かれる。

● モロ
尾ビレの後縁が赤いこと以外はムロアジによく似ているが、体側に黄色い縦縞がないことで判別可能。漁獲量が少なく鮮度落ちも早いため、鮮魚として利用されることはあまりない。ムロとも呼ばれクサヤの原料になるが、味はクサヤモロより劣るとされる。

● クサヤモロ
モロによく似ているが、尾ビレの褐色がつよく後縁の赤色がない。口吻もやや前方に突き出ている。体側によく目立つ青色の細い縦縞があるためアオムロともシロムロとも呼ばれる。その名の通りクサヤモロで作ったクサヤが一番の高級品である。

● 正直ムロアジには小離鰭 ( しょうりき ) がある
 ムロアジとは本来ムロアジ属のムロアジのことを指すが、釣りの現場ではほかのムロアジ属の魚をまとめてムロアジと呼ぶことがある。日本に6~7種類が分布しており、なべて身が赤っぽくて脂肪分が少なく、鮮度も落ちやすいため干物などに加工されることが多い。尾柄部の上下には、マアジやメアジにはない小離鰭と呼ばれる小さな独立したヒレがあり、このヒレがあればいくらマアジに似ていようがムロアジの仲間である。マアジに比べると胴体が細くて丸みがあるのが特徴。中でもムロアジ、モロ、クサヤモロ、オアカムロの4種はとくに細長い。

二種類のマアジ

黒アジと黄アジ

 マアジという一つの種類の中に、回遊性のアジと、地付きで移動しないアジがいて、見た目や食味、価格までが違うために別々の名称で呼ばれています。生物学的に別種ということではありません。
 魚類が回遊する第一の目的は策餌であり、つぎが繁殖です。食料が豊富であればわざわざ厳しい旅に出る必要はありません。餌に恵まれた場所のキャパシティが限られていて、すべてのアジを養うことが出来ないため、エサを求めて回遊する群れが発生します。回遊の途中で住みやすい場所が見つかれば、一部が定着して地付きになるため、棲息域が異なる2つのタイプの間でDNAに違いはありません。マアジは餌を競合する他魚種との生き残り戦略として、回遊と地付きの両方に対応できるハイブリッドな生活スタイルを獲得しました。身肉の色も回遊魚の赤身と、定着魚の白身の中間にあたるピンクをしています。

地つきのキアジ

 アジには魚礁のように高さのある場所に定着しやすい性質があります。海底の面積の多くは砂漠のような不毛地帯ですが、岩礁などで小高く盛り上がっている「 瀬 」には餌生物を育む様々な海藻が着床し、岩の隙間には小エビやカニなどが潜んでいます。このような場所に定着して地つきとなったアジは、体全体に黄色がかっているため、キアジまたはキンアジと呼ばれます。
 日光が射し込む浅場には緑色の海藻が多いうえ、植物プランクトンが発生して海水の緑色が増し、日光の成分の中でも黄緑色の光が透過しやくなります。緑色があふれた環境での保護色として黄色っぽい体を獲得するのかと思われます。
 エサが豊富な場所で育った魚は脂肪分が多くてふっくらとした体型になります。瀬付きのアジは釣られやすいため流通量は少ないですが、食味がいいために各地でブランド化されています。

苦労が多いクロアジ

 一方、回遊性のアジは黒味がかった体色をしていることからクロアジと呼ばれます。海表のつよい紫外線を避けるために背中が青いのが青魚ですが、アジは成長すると水深100~200mもの深場まで生息域を広げます。深場に棲むようになったアジは、口の中とネクタイの辺りが真っ黒に変色して、ノドグロと呼ばれることがあります。アカムツやクロシビカマスなどの例もあるように、水深のある場所に棲む魚のノドが黒くなるのは、暗い海中でエサの小魚を飲み込むときに暴れさせないためかもしれません。口の中が黒くて目立たなければ、小魚は自分の向いている方向が海だと思って素直に前に進んでくれます。
 餌の乏しい黒潮の中を泳ぎ続けるクロアジは、地つきのアジよりも体高が低くてスマートな体型をしています。地つきに比べると脂肪分が少ないので、食味についての評価はあまり高くありません。

黒ければ回遊性か

 魚の養殖にはコストがかかります。高値で売れる高級魚はともかく、そこらで獲ってくれば済むような大衆魚に向いた方法ではありません。したがってアジやイワシは鮮魚店での販売目的ではなく、高級魚の餌用か、またはヒラメやイカなどの泳がせ釣りの餌として養殖されるのが普通です。
 ところが瀬付きの高級アジの場合は、たくさん獲れたときに出荷時期を調整するためにイケスで畜養されることがあります。漁協近くの浅場で飼われるため、もとは黄色がかっていたキアジも日焼けして黒くなってしまいます。色が黒いからといって回遊性のクロアジとは限りません。