03 スズキ釣り実践編その1

東京湾 データフィッシング
解説:斉藤知雄

明確な季節変動

 ケミホタルフィールドスタッフの斉藤さんは、仲間たちと年間のべ390回のナイトシーバスに出かけ、月齢や潮時、ヒット時間など多くの情報を記録しました。月別釣果のグラフを見ると、スズキには年間2回のピークがあることが一目瞭然になります。中でも目につくのが4月の釣果。1~3月までは計139回の釣行で106匹、1回あたり0.76匹の釣果だったのに、4月は91回の釣行で179匹の釣果を上げています。1回あたり1.97匹の高率になりますが、これはバチ抜けシーズンを迎えたためです。多少の変動はありますが、海水温21℃をバチ抜けの目安にしてください。
 夏が近づくと沖に出てしまうため、6月からの釣果は急激に落ち込み、7月はたったの1匹。8月にいたっては釣行ゼロです。夏が過ぎて9月になると15回で20匹と回復し、10月は26回の釣行で54匹を仕留めています。グラフには表れませんが10~11月は産卵前の荒食い時期となり、良型揃いなのが特徴です。12~1月は産卵のためまた外海に出るので釣果はよくありません。

潮回りとヒット率

 月の朔望1サイクルのうち、大潮と中潮の20日間 ( 66.6% ) で全釣果の71.8%に相当する333匹が釣れています。これは他の魚種にも見られる一般的な傾向ですが、やはり大潮~中潮には成績がよく、潮があまり動かない小潮~若潮は釣れにくいことが裏付けられました。( ただし例外的にアオリイカなどは遊泳力が弱いため、潮の速い日は釣れにくく、潮が緩むと喰いが立ちやすい傾向があります。 )

潮位は2010年3月の御前崎をモデルにしており、地形や季節によって大きな変動があります。たとえば大潮の満潮時には潮高が158cm、6時間後の干潮時には13cmなので差し引き145cmの潮位差があったことになります。しかし23日の小潮になると満潮の111cmに対して干潮が105cmもあり、その差はたった6cmしかありません。

スズキは下げてヒットする

 釣り上げた464匹を、ひとつの干満サイクルの、どの潮汐度で釣れたのかをプロットしてみました。このグラフからは、上げ潮での喰いがわるく、下げの1分~2分にヒットが集中していることが見て取れます。潮が動かないときはピークがやや平均化されますが、大潮になると下げでの喰いの良さはさらに顕著になります。これはとくに湾奥で見られる現象ですが、満潮に乗って接岸した小魚を追ってスズキも接岸し、下げになって上流から落ちてくる小魚を待ち受けて補食するためです。ただし小サバなどの大きな群れが回遊してきたときは潮汐度にかかわらず釣れ続くことがあります。
 下げもピークを迎えると水深がなくなってしまい、陸っぱりでの釣りは難しくなります。そのため干潮時の釣果は立ち込み ( ウェーディング ) によって得たものです。
 全体的な結論としては、2~6月にかけての大潮から中潮の潮回りで、満潮から下げに向かう時間帯がベストということになります。暦を見れば釣果を得やすい日を割り出せるので、まず潮回りで釣行日を決め、次に上げ下げの潮汐度で竿出しの時間を決めます。さらに水温と水深を考慮してポイントを絞り込んでください。

移動の理由

 海の魚は一年間の水温の周期的変化や、約30日間の月光量と潮汐のリズム、および毎日2回の干満のリズムの影響を受けて生活しています。スズキの場合はさらに、河川の流れ込みや潮流による流速の変化、天気や日射量による日ごとの水温変化、プランクトンと酸素量、雨による突発的な水位の変化、ベイトの種類や量、海中の明るさなど、じつに様々な外的要因に応じて頻繁に居場所を変えます。
 暗くなると活発に動いて補食を始めるので、釣行がタマズメから朝マズメに当っていれば、スズキを手中にできる確率は8~9割にまで高まります。もちろん条件次第では昼間の釣りでも釣果を上げることが可能です。
 どの魚種にも共通することですが、魚がその時期、そのフィールドで喰い盛っている餌が一番いい餌です。現場に到着したら最初にベイトの種類を調べてください。

斉藤知雄

[ プロフィール ]

  • 東京ベイエリアで活躍する投げ物系アングラー。
  • 品川シーバスフィッシングフリーク会長。
  • ケミホタルフィールドスタッフ、クレハ契約プロ
  • ゼニス、バスデイ、エクリプス、オーケー光学テスター

海の基本パターン

 太陽光線には紫外線が含まれており、基本的に魚種は直射日光に身を晒すことを嫌います。そのため深場は別として、朝夕の暗い時間帯や曇天、にごり潮の日などに活性が高くなるのが普通です。餌となる小魚の眼球は小さく、網膜が受け取る光の量が少ないため、陽が落ちればすぐに視界が利かなくなります。眼が大きな中・大型魚はこの時間帯を利用して小魚に襲いかかります。
 夜行性魚の第一の目的は策餌活動であり、スズキもまた、小魚の視界が制限されて、姿を見られにくい薄暮を利用して補食します。大きく成長した個体ほど眼球が大きいために暗視能力が高く、より暗い時間帯の活動が可能です。
 スズキが小魚を攻撃するパターンはおもにふたつ。

① 待ち伏せ攻撃

 障害物の陰にグレー色の体を隠し、近くにやってきた小魚を一気に吸い込むパターン。スズキの口にはくわえた獲物を噛み切るための門歯がありません。エラを大きく開けて口の内部に負圧を発生させ、生きた餌を海水ごと吸い込む仕組みなっています。近づいてきた小魚を補食できると判断したら、物陰からダッシュして海水ごと吸い込みます。瞬発力は必要ですが、持久力は必要とされない、まるで根魚のように省エネな補食スタイルです。このパターンのときは下から上方向に襲うので、ルアーを通すタナを考慮してください。

② 追尾攻撃

 獲物の後ろから、ある程度の距離を追いかけて補食するパターン。獲物をやや上回る程度のスピードで追尾するため、ルアーを観察する時間を与えてしまいます。
 唇で一度触って餌かどうか確かめるタイプの魚には、感触の柔らかいソフトルアーを使いますが、スズキは勢いよく吸い込むのでハードルアーでもハジかれることは多くありません。ただし、俊敏に逃げ回る小魚を捕捉できるスズキが、普通のスピードで動くルアーを追って来ながら、目前でバイトを止めたときには、ルアーが見破られた可能性があります。

川の基本パターン

 スズキは本来海水魚であり、純淡水域まで遡上できると言っても、実際には塩水クサビを利用していることが多いようです。堰のない大きな河川では100kmにも達するという、川底の塩水層を辿って遡上しますが、この塩水クサビは潮汐の影響を受けて、日ごとに到達距離が変化します。潮位が低いときにはあまり上流まで行けないはずだし、潮位が高いときには、それを見越して上流のポイントを設定することができます。
 上げ潮時には川の流れが緩くなりますが、ベイトは広範囲に散らばっているので、補食効率がよくありません。スズキはこの上げ潮を利用し、水深のある場所を伝わって川を遡ります。大潮の干潮時にでも川を見に行き、水筋がどこにあるか観察しておくといいでしょう。
 下げ潮になれば流れが速くなるので、ベイトは流れの緩いワンドやカーブの内側を通るようになります。スズキはこのとき、水深のある場所で頭を上流に向けたまま、流されてくるベイトを待ち受けています。そのためまずは、身を隠せる深みがあるポイントを探し出してください。ルアーを川上から流して行けばいつも同じポイントからヒットしてきます。
 上流域では流量のある瀬の際や、それに続く瀬尻、ヒラキ、淵など、ベイトが休める場所を狙います。もうこれ以上は上れなくなる堰堤下の淵は絶好のポイントです。

川スズキも夜の釣りである。ルアーがどこを流れているか判らないようでは、ポイントを攻め切ることはできない。ルアーを視認する意味でも ケミホタル が有効である。

ピタホタル - ピタッと貼りつく平面型ケミホタル

日本記録は計測不能!!

 マルスズキの日本記録は大分県の堅田川で釣られた126cm、13.14kgです。この川と合流する番匠川で2008年に134cmのタイリクスズキが上がりました。釣ったのは当時高校二年生の下川くんです。秋雨前線が通過した直後の夜8時半、ニゴリの中でフッキングさせ、近くの釣人の手を借りてようやくランディング。計量のため行きつけの釣具店に持ち込んだところあいにくの店休日です。つぎの釣具店では秤 ( はかり ) を振り切ってしまいました。このお店で冷凍をお願いし、後日60km離れた別の釣具店まで持って行きましたが、ここの20kg計も振り切る有り様。スタッフの方に支店に置いてあるクエ ( アラ ) 用の50kg計を運んできてもらい、再計測したところついに20.8kgとの結果が出ました。
 記録保持者の二人が通う釣具店のご主人によると、釣れたのは決して偶然ではなく、釣るべくして釣ったとのこと。でっかいチャンスに遭遇するだけの回数を通い、タックルの限界を引き出す技術を持っていたからこそ、生涯に一度の大物を手中にできたのです。