02 クロダイの生態

産卵と成長

 クロダイの産卵は夜間に行われるため目撃した人はごく限られています。磯の水深 50cm ほどの藻の中で産卵するという説もあれば、湾内の浅い砂地だという説もあります。
 山口県下関市の海響水族館では毎年一番大きな水槽で産卵が観察されていて、飼育員さんの目撃情報では、春になると深夜の海底で、1匹のメスと2~3匹のオスが群れをつくり、オスたちがメスに寄り添って産卵を促すと、メスは一気に水面まで泳ぎ上がって産卵、同時に追いかけていったオスが精子をかけるそうです。これが何日か連続して行われ、40cm くらいのメスなら合計で約200万粒を産むとのこと。長い間ナゾに包まれてきたクロダイの産卵ですが、判ってみると意外に普通でした。
 卵は分離浮遊性で直径 0.8~0.9mm 。海面を漂いながら水温 20℃ の場合、30時間ほどで孵化し、体長 8~10mm になると岸寄りしてプランクトンを食べはじめます。成長は海水温の影響を大きく受けますが、1年で 12cm 、5年で 25cm 、9~10年 で 40cm を超えるようになります。50cm に成長するまで18~19年が必要だとされます。

≪ 性転換 ≫
 魚類およそ2万5000種のうち300種ほどで性転換が確認されていて、その多くは雌性先行型です。始めは全数メスなのが、群れの中で大きく成長した魚だけがオスに性転換します。これは生存競争を勝ち抜いたつよい遺伝子だけを受け継いでいく作戦です。
 ところがクロダイは逆で、雄性先行型の性転換をします。幼魚のときはすべて雄なのに、2歳頃から精巣のほかに卵巣が備わるようになり、3歳頃からは精巣が成熟したオス、または両性型になり、さらに成長して5歳以上になると 70~90% は卵巣が成熟してメスに性転換します。残りはオスのままで成長します。
 大きく成長したメスほど卵の数が多くなります。体内で卵を育て上げるには多くのエネルギーが必要であり、大きく成長してからの方が都合がいいため、とりあえずメスの数を多くして、たくさんの子孫を確保する作戦かと思われます。
 性転換には雌性ホルモン ( エストラジオール‐17β ) が関わっていて、2~3歳のオスにこのホルモンを経口投与するとメスに性転換するそうです。本来性転換しないはずのメダカやコイ、マコガレイなどのメス化が確認されていて、これは天然由来、人工物質由来にかかわらず、河川に魚の内分泌を攪乱する化学物質が流れ込んで、体内に取り込まれたときに雌性ホルモンの働きをするのだと考えられています。クロダイは人間の近くにいるだけに、自然な性転換が阻害されて繁殖能力が低下することが危惧されます。
 江戸時代に、妊婦がクロダイを食べると流産するという俗説が生まれ、望まぬ妊娠をした女性が堕胎薬として食べることが流行しました。もしこの俗説に少しでも真実が含まれているとすれば、おそらくクロダイの持つ性転換ホルモンの影響かと考えられます。

麦を食べたクロダイの
レントゲン写真

押し麦はクロダイの大好物。消化はわるいようですが、水でふやかした麦粒や米粒でもクロダイは釣れます。ラインと鈎のついた麦で、ヒラヒラと落ちていく動きを出すことは難しいので、まとめて鈎につけて海底に置きます。居喰いをする魚だけに、エサだけ取られることもあります。
[ 写真提供 : ケミホタルフィールドスタッフ 山本達雄氏 ]

季節別の狙い方

 クロダイが活発にエサを追うのは水温 12℃ 以上です。変温動物である魚類の体温は水温より 0.5~1℃ ほど高いくらいで、水温が変化すればそれにつれて体温も変化するしかありません。
 海水は熱容量が大きく、空気の357倍もの熱を持っています。熱伝導率も空気の 57W/S・cm・℃ に対して海水は 1400W/S・cm・℃ なので、24.5倍も速く大量の熱が伝わることになります。全身が海中に接していて、エラを通る海水で呼吸する魚類にとって、水温の低下はそのまま代謝の低下に直結する大事件。代謝が低下すれば、体を維持するエネルギーが少なくなるので活性まで低くなります。
 同じ水温 20℃ でも、低い温度から 20℃ に上がったのなら、代謝も上がるため、元気にエサを追ってくれます。ところが、前日から急に下がって 20℃ になったのであれば、活性はガクンと下がってしまい、体が対応するまでの時間が必要です。クロダイは 0.05℃ の温度変化を感知できるそうです。水温が変化すれば居つく場所や食性も変化するので、季節に応じて釣り方を変えてください。

 水温の安定した深場に逃げ込んでいたクロダイが産卵を控え、水温の上昇とともに浅場に寄せてくる、いわゆる「 乗っ込み 」は、南を向いた穏やかな藻場から始まります。早いところでは2月から始まり、一般的には5月くらい、寒い地域では6月にピークを迎えます。産まれた卵が流されないよう潮が緩く、孵化した稚魚が身を隠すための藻が生えた場所に親クロダイが集まっています。この時期のクロダイは体力をつけるため食欲旺盛ですが、同時に神経質でもあり、エサを一気に引き込むことはありません。
 水温がまだ低い時期なら、エサが多い場所での底狙いが基本。エサ盗りが少ないのでオキアミのフカセで狙えますが、撒き餌をあまり大量に投入しないよう注意してください。

夏 ~ 秋

 真昼の暑さからも、エサ盗りからも逃れられる夜釣りの好適シーズンです。太いラインが使える夜釣りは一発大物をゲットするチャンス! 夜はこちらの姿も隠せて好都合ですが、ライトで海面を直接照射しないよう注意してください。つよい照明を灯けた小舟で河口を夜漁りすると、岩陰に身を寄せるクロダイが照らしだされます。10cm 位の幼魚は光の中をすごい速さで走り抜けますが、30cm 以上になるとゆったり眠ったままです。背ビレがでるような浅場であっても、小舟のようにゆっくり動く光や常夜灯が警戒されることはありません。
 クロダイは水中に伝わる音に対しても非常に敏感です。硬い岩場やコンクリーの護岸の上では、不用意な音は立てないほうが無難です。

梅雨 ~ 初夏

 産卵を終えたクロダイは、しばらくの間、海藻類の多い浅場で体力を回復します。この時期は身が柔らかく食味もあまりよくありません。梅雨が開けるころになって水温が上がるとまた積極的に就餌活動を始めるので、堤防のヘチなどカラス貝が貼り付いた場所を狙ってください。水温が上がってくると、エサ盗り軍団の活性も高くなります。小魚の攻撃をかわすには、カニやアケミ貝をエサにした落とし込みやダゴチン釣りが有効です。
 梅雨は海に雨水が流れ込んで塩分が薄くなります。普段は狙って釣れるキチヌ ( キビレ ) ではありませんが、この時期は低塩分に滅法つよいキチヌの活性が高くなって、よく釣れるようになります。

 パワーが猛烈につよく、食べても美味しい時期です。越冬前には荒喰いモードに入るので、数釣りも期待できます。水温が下がってくると体色がやや白くなり、小さいものから先に沖の深場へと落ちていきます。このとき 100m を超えるような大きな群れで移動することがあります。
 厳冬期には湾内の温排水が流れ込む場所や、沖目の澪筋などの深場がポイントになります。ボケなどの活き餌で底を這わせて誘うといいでしょう。冬のクロダイは海藻を食べています。これは海藻そのものの栄養よりも、摂取した食物をエネルギーに変える触媒として食べているらしく、海藻を食べたクロダイの生存率は高いと言われています。

クロダイの好む色

 鹿児島大学水産学部の川村軍蔵教授の研究によると、クロダイとメジナは黄色いエサを好んで食べるそうです。エサそのものの色ではなく、水中で見えやすいエサを食べている可能性があるので、背景色をさまざまに変えて実験したところ、オキアミで餌付けされたクロダイでさえ、普段のままのオキアミよりも、黄色に着色されたオキアミを好んだそうです。ルミコアクア の淡いエメラルド色にも実績がありますが、条件次第ではほかの色にもヒットします。

ルミコは潮の色に合わせる

 太陽光が充分に届く浅場にはカラフルな生物が棲んでいます。周囲と同じ色にカモフラージュした魚もいれば、熱帯魚のようにハデな色彩の魚もいますが、どちらにしても外部から認識されなければ意味がありません。もし魚たちが色を認識できないとしたら、せっかくつくり出したデザインと色素がムダになってしまいます。かれらの衣装には、たくさんの中から同種を見つけて群れをつくる役目や、パートナーを探し出して確実に繁殖する役目があります。
 物体の体色を正しく認識するには、その色を含んだ光があたっている必要があります。太陽光には虹の七色のすべての光が含まれていますが、到達できる水深は波長によって異なります。海水には波長の長い光を吸収しやすい性質があって、とくに赤外線は海水を温めるのに消費されて急速に減衰します。可視光域の赤色 ( 680nm ) もわずか水深 5m で水上の0.5%まで減衰し、人間の眼では 5~10m で赤い物体が見えなくなります。深くなるに従ってオレンジや黄色も消えていき、40m を超えるあたりから青を基調にしたモノトーンの世界になります。水 ( H2O ) を構成する酸素原子は光があたると青色に発光するので、もともと水や氷には青く見える性質があるのです。
 海中には赤色が少なく青色が多いため、魚類の色覚は全体的に青色側の感度が高くなっています。色覚を持つことが確認された魚類の多くは、赤・緑・青の3色のほかに、337nm の紫外線を感知できる錐体細胞が備わっていて、人間には見えない紫外線領域まで見えることが判っています。
 地上では赤いマダイも海中では暗灰色に見えてしまいます。赤色の物体を認識できるのは水深数メートルの範囲に限られていて、それより深い場所では赤に見えない以上、中・深海性の魚類は赤色に対する感受性を持たないだろうと考えられてきました。
 ところが近年になって、クダクラゲの一種とムネエソの一種に、赤色の生物発光が発見されたことで、従来からの説が揺らぎ始めています。科学誌「 サイエンス 」は、クダクラゲの消化器官の内容物を調べ、エサの少ない深海で、赤い光を使って小魚をおびき寄せて補食するのではないかと推理しています。これはエサとなる小魚に赤色が見えている可能性を示しています。太陽光のバランスが失われる海中で、本来の色を再現できるのは自から発光する物体だけであり、赤い光の ルミコ がカレイやヒラメに特効的な集魚効果を発揮することが知られています。
 海中が青いということは、そこまで青色の光が届いているということ。澄んだ外洋では、遠くまで届く青色の光を使ってください。
 逆に、植物プランクトンで緑色に懸濁した沿岸では、緑色の光が透過しやすいので、黄緑色の光を使うことが基本となります。

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