07 クロダイ釣り実践編3

ダンゴ釣法3兄弟

紀州釣り

 江戸時代に紀州周辺 ( 和歌山県と三重県南部 ) で、エサ盗りから付け餌を守るためにダンゴで包む方法が考案されました。ダンゴのニゴリにはハリスを隠し、魚を寄せてポイントを作り出す効果があります。大きさは野球ボールくらいで、地域によってバクダン釣りともダゴチン釣りとも呼ばれます。
 紀州釣りはエサ盗りの多い夏場に効果を発揮します。水深に応じて、壊れずに海底まで届く硬さでダンゴをつくり、着底して溶けるダンゴのニゴリで魚を寄せます。魚につつかれてダンゴが崩壊し、中から現れた刺し餌にクロダイが喰いつくという作戦です。
 足元を釣るなら根掛かりはあまり問題になりませんが、沖目の回遊クロダイを狙う場合には、根掛かり対策が必要になります。ダンゴは手で投げ入れるか、または専用ヒシャクを使って遠投し、置き竿にしてアタリを待ちます。磯からの遠投は、警戒心の薄い沖のクロダイを狙うには適していますが、流れが速いときにニゴリの効果が出にくいのが弱点です。
 ダンゴが割れたとき刺し餌を浮かす方法と、ハリス部分まで着底させる「 這わせ釣り 」があります。刺し餌にはモエビやオキアミのほか、ボケ、イソメなどが使われます。ダンゴにも活きたモエビを入れることがありますが、あまりつよく握ると圧死してしまうので注意してください。

若狭釣り

 若狭 ( 福井県 ) では昔、養蚕が盛んでした。絹を取ったあとのサナギが川に捨てられ、それにクロダイが餌付いたと伝えられています。長い間に身に付いた習性で、今でも若狭湾のクロダイやマダイはサナギが大好物。サナギはニオイがつよくて集魚効果も高いのでミンチにして赤土と混ぜてダンゴにしていました。赤土は割れ加減が調整できるうえ、重くて遠投が利いたのですが、海を荒らすため現在では使用禁止になっています。
 潮の緩い湾内であれば、磯・波止・イカダを問わず、自立式で感度のいい棒ウキとダンゴで遠くのポイントを狙うのが夏~秋にかけての若狭湾での釣りです。先調子の短竿を使って、小さなアタリに正確に合わせ、かかったクロダイは素早く回収して場を荒らさないようにします。
 若狭湾にはエサ盗りが多いので、付け餌にも鈎持ちがいいサナギを使います。サナギが硬くて喰い込みが良くない場合には、砂糖水で煮て柔らかくします。浮きやすいサナギも煮れば水分が浸みて沈むようになりますが、そのまま使う場合は鈎にヒューズを巻いて重くするか、海水を入れたバッカンにサナギを入れて、沈んだものだけを使います。
 付け餌はこのサナギ一種類だけで充分であり、また、サナギでなければ夏の若狭湾で良型クロダイを釣ることは難しいとされます。

イカダ釣り

 波の静かな湾内のイカダからクロダイを狙います。本来、養殖のための筏ですが、エサが豊富なため大型のクロダイが寄りついています。足元から釣るのでウキは使いません。その代わりに微細なアタリを穂先で見極める必要があるので、先調子のイカダ専用竿の使用をお勧めします。
 ダンゴはイカダに渡る前から、ポイントの水深に合わせて準備しておきます。周辺の釣具屋さんが、釣場に応じた配合のダンゴを用意していることがあるので、初めての人は使ってみるといいでしょう。
 ダンゴはクロダイを寄せてポイントをつくり出す釣法です。前日に釣れたポイントに居着いているので、どこで釣れたかを知ることが釣果に直結します。イカダに渡ったら、とにかく最初に撒き餌して周辺のクロダイを寄せてしまうことが肝心です。一匹釣り上げて鈎を外している間も撒き餌をして群れを散らさないようにします。餌取りが多いときは、ダンゴだけを落として雑魚を集め、周辺にいる本命を付け餌で狙うことができます。また、真下なので、タイミングを見計らって、ダンゴから付け餌を引き抜くことも可能です。
 ポイントから近いだけに不用意に音を立てるとクロダイを散らすおそれがあります。静かにアタリを待ち、アタリがあったときはラインがイカダの縁で擦れないようにアワセます。
 イカダ周辺の海底にはあまり障害物がありません。竿が短くてタメが利かないのがつらいだけで、取り込み自体は楽に行えます。ただし係留ロープに近い釣り座の場合は、ロープに付着したカラス貝やカキでのラインブレイクに注意してください。

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伊勢尼 ( いせあま ) の語源

 様々な魚種に対応可能で、釣鈎の代表選手とも言える「 伊勢尼鈎 」 。この鈎を創出したのは四国土 ( 高知 ) の広瀬丹吉という人物です。生年は不詳ですが、1781年に土佐で釣鈎職を創業し、1802年に亡くなったとされます。
 丹吉が、自分の作る釣鈎になぜ「 伊勢尼 」という名称をつけたのか、その由来は伝えられていません。明治時代の資料によると、アマのつく釣鈎にはイセアマ型のほかに、アマ型とイソアマ型があって、どこが違うのか判らないほどよく似た形をしています。
 それぞれの鈎の登場年は不明ですが、たとえばアマ型とイソアマ型を比べた場合、アマがベースにあって、違いを明確にするためにイソが付加されたのは明らかです。チヌなくしてキチヌがあり得ないのと同じ理由で、アマが先発だと断じていいでしょう。
 しかし「 尼 」とはいかにも突拍子のない名称です。いったい尼僧が釣りにどう関係するのでしょうか。そこで「 尼 」を当て字だと割り切ってしまえば「 海女 」( または海士、海部 ) が一番の候補になります。もともと古代の部民のひとつで、潜水漁を専門とする海の民のこと。海女とて漁に釣鈎を使うことはないのですが、磯で漁をするプロとしての尊敬を込めてアマ型と名付けたのかも知れません。
 当時はお伊勢参りの全盛期でした。「 伊勢 」の語原は「 磯 」のこと、「 志摩 」の語原は「 島 」との説もあるほどで、もともとイセとイソは同じルーツの言葉です。伊勢は全国に知られていたので、磯釣りのメッカとして、その名を借用することは不自然ではありません。
 土佐の丹吉がつくる釣鈎は鈎先が鋭く、かつ頑丈なことで抜きん出た品質を誇っていました。そこで先行商品のアマ型に、プロ品質をイメージさせる「 伊勢 」を組み合わせて「 伊勢海女 」という商標にしたのが、口から口へと伝わっていくに従って「 伊勢尼 」の字が当てられてしまったのでしょう。
 初代丹吉が活躍した当時は、京都が遊漁用釣鈎の主産地、土佐が職漁用釣鈎の主産地でした。鈎職人は1日に4本を仕上げれば一人前とされたほどで、それだけ個人の力量に頼る部分が大きかったようです。独自の焼き入れ技術を駆使して、高品位の鈎を作り続けた丹吉の名は何代にもわたって襲名され、土佐の製鈎技術の底上げに貢献しました。幕末頃になると、播州の小寺彦兵衛が三代目丹吉で伊勢尼鈎の製造技術を修行し、1851年には故郷で釣鈎の製造を始めます。これが今日の播州針のルーツになっています。

※「 針 」は金属製を意味する「 金 」と、真っ直ぐに尖った棒を表す象形文字の「 十 」を会意した字です。現在の釣針に真っ直ぐなタイプはまれなので、本誌では「 針 」を使わず「 鈎 」と表記しています。針の音読みはジンですが、鈎の音読みはチです。このチがチモト ( 鈎元 ) のチです。

各種釣法

前打ち

 クロダイは敏感なうえに学習能力が高いので、釣人が多い場所ではすれてしまって、落とし込みでもなかなか釣れてくれません。そこでケーソンの基礎石の駆け上がりやテトラの際など、目の前の海底までエサを落として釣るのが前打ちです。
 仕掛けは2~3号の道糸にハリスを結ぶだけで超簡単、目印を使わないタイプの落とし込みと同じですが、壁の中層だけが狙いではないため、広範囲から釣ることができます。竿は 5~6m とやや長めでリールは両軸が主流です。テトラの中を釣る場合はスレにつよいフロロをリーダーにしてください。
 エサはオキアミではエサ盗りに太刀打ちできません。イソメやイガイ、カニなど場所に応じて使い分けますが、前打ちではほとんどの場合でカニが有効です。ガン玉は鈎につけてください。ハリスにつけるとオモリが先に落ちて絡みつきます。
 カニが底についたら糸を張ってアタリを待ちます。アタリが出なければフワリと引き上げ、カニを泳がせながら着底させます。これを繰り返しながらポイントを探っていきます。

さぐり釣り ( 拾い釣り )

 魚を求めてあちらこちらのポイントを探って歩くスタイルをさぐり釣りといいます。朝夕のマズメと満潮が重なって、クロダイが浮き上がっている時がチャンス。クロダイのいる場所は決まっています。石組みの階段が海中に水没した辺りなどを、姿を見られないように注意しながら観察すると、クロダイの魚影を見ることができます。そこを狙ってそっと仕掛けを入れてください。ピンポイント狙いなのでエサはオキアミでOKです。
 このさぐり釣りも夜釣りに分があります。糸がらみの少ないインナーロッドか、軽さと感度で圧倒的に有利な 6m クラスの延べ竿を用意してください。ウキ釣りや投げ釣りのように、仕掛けを流したり飛ばしたりしないので仕掛けはシンプルです。ウキを介さないためアタリを手でダイレクトに感じとれるのも魅力です。
 初めのうちは穂先が少し曲がるくらいのオモリ ( 0.5~1号 ) を使って、糸がピンと張る状態で、タナを自由に選びながら探っていきましょう。道糸に ちもとホタル を2個所セットすると仕掛けの位置や、微妙なアタリが判りやすくなります。馴れたらだんだんと軽いオモリに替えていきます。
 前打ちと同じように、石積みの上面やカケ上がりを探って歩くので、足元が滑らないように、スパイクかフェルト底の靴をはいてください。両手が自由になるヘッドライトも必需品です。

こすり釣り

 これも落とし込みのバリエーションです。波止の高さに合わせた長さの竿を使って、カラスガイやフジツボのついた層を水平にキープしながら、潮の流れに合わせて釣って歩きます。
 コツはエサの位置を壁から 20cm 以内に保つこと。長くて変化の多い堤防を選ぶこと。テクテク歩きながらの曳き釣り ( トローリング ) なので 「 テクトロ 」 と呼ばれることもあります。活性が高くなる夕マズメから夜にかけては目印に ちもとホタル を一つか二つ。スズキもヒットします。

スルスル釣り

 クロダイはエサに食いついても違和感があるとすぐに吐き出してしまいます。その対策として、サルカンやオモリなど異物と感づかれそうなものは一切使わず、できるだけ細いラインを通しで使って完全フカセで釣るのがスルスル釣りです。磯の上物でウキ止めを使わないときのスルスルとは別の釣法です。
 仕掛けを投入したら、竿先から 4~5m 分くらいのラインを引き出し、自然な輪にして堤防の上に置いてください。エサを口にくわえたクロダイは用心深く後ずさりします。このとき地面に巻いておいた糸が、なんの抵抗もなくスルスルと出て行き、いかに熟練したクロダイだろうと、これは自然だと納得して喰ってくれます。

エビ撒き釣り

 生きたブツエビを何匹もポイントに撒き入れ、ご馳走に大喜びしているクロダイを同じブツエビの餌で釣り上げます。釣具屋さんで買ってきたエビを生かしておくには、水温を上げないためのクーラーや、酸素を供給するブク、エビを掬う網などが必要になります。お金のかかる釣りですが、視界の効く海中では、生きて動くエビの効果は絶大。もしクロダイが釣れなくてもスズキやメバルなど、なんらかの釣果があります。
 エビは手で握って仮死させてから、柄が柔らかくて、カップに水抜穴が空いた撒き餌ビシャクを使って投入します。エビを殺さないように細軸の鈎と、胴調子の柔らかい竿を使います。この釣りは撒き餌との同調が釣果を左右します。釣れない原因はほとんどの場合、タナ外れなので、細く長いハリスを使って、撒き餌の中に刺しエサが入るように集中してください。

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ボラ対策

 ボラもクロダイと同じく汽水域を好む魚です。頭部は上側が平たく、アゴ側が尖った逆三角形をしており、海底を見ながら泳ぐのに適した形状になっています。口が下向きについているのは、海底に降り積もった有機物を、砂泥ごと口の中に吸い込むためです。この食性の影響で、汚れた海域に棲むボラは臭くて食用にならないことがあります。ボラを食べない地域では、アタリがあってもアワセずにやり過ごすのがセオリーとなっていますが、もしクロダイが美味しい場所であれば、ボラも美味しい理屈なので、思いこみを捨てて一度冬のボラを食べてみてください。外洋に面した河口で釣れる寒ボラは匂いなど全くなく、非常に美味しく食べられます。
 泥を吸い込むボラにとってダンゴのニゴリは大好物。簡単には去ってくれないため、ダンゴを使う以上避けて通れないのがボラ対策です。ダンゴに引き寄せられたボラは盛んに泳ぎ回ってニゴリを拡散してくれます。このニゴリに反応してクロダイの活性が高くなるので、ボラが寄りつくことがクロダイ釣りの条件ともいえます。
 ボラはサシエをいったん口の中に入れても吐き出します。したがってエサを取られることはあまり多くありません。クロダイはダンゴを囓るように食べますが、ボラはダンゴをツンツンと突くようにして食べるので、アタリはモゾモゾとした感じになります。竿先が押さえ込まれたからといってすぐにアワセたのではボラを釣ってしまうので、しっかりとアタリを見極めて、ダンゴからサシエが出た直後の本命アタリに集中することが大事です。
 ボラはクロダイよりも上の層を泳いでいます。フカセ釣りの場合、潮流があまり速くなければ、できるだけ軽い仕掛けを使いたくなりますが、ボラから狙われやすいのも中層をゆっくりと漂うエサです。ボラがいるときは大きめのオモリを使って底まで一気にエサを落とし込んでください。
 また、一般的にはボラがヒットしたらタナを下げますが、水深が浅い場所では、ボラとクロダイの上下差がなくなるため、対策が難しくなります。もし大型のボラがフッキングしてしまえば釣り上げるのが大変なので、面倒を避けるには深場所に移動するしかありません。