09 ロックフィッシュ魚種別解説

紳士録

カサゴ
Sebastiscus marmoratus

 カサゴの仲間は英語で“Mail-cheeked fishes”と呼ばれる。Mailは手紙のメールではなく、金属でできた甲冑や鎖カタビラのこと。Cheekは頬なので「甲冑の頬をもつ魚類」の意味になる。この名が示すように、カサゴ目の魚には、硬い装甲で身を護っていた時代の痕跡が色濃く残っている。とくにモヨウキホウボウやトクビレなどはまるで甲冑魚のようだ。
 ところが、カサゴ目が初めて登場したのは4000万年ほど前の始新世(ししんせい)中期。甲冑魚どころか、魚類の長い歴史からみればほとんど先端部分に位置し、現在もまだゆっくりと進化と分化を続けている状態である。
 カサゴは個体によって体色の違いが大きい。そのため、少し前まで、沖の深場にいるカサゴが大きくて色も薄いのは、環境への適応だと考えられていた。それがDNA鑑定によって新種だと判ったのが1978年。標準和名でウッカリカサゴと命名されたのが1979年。不完全ながらその見分け方が見つかったのが1999年のことだ。両者のビジュアルは非常によく似ており、とくに小さい個体では見分けることが難しい。分化して間がないから似ているのである。
 ネルソンの「世界の魚類」(1994)によると、カサゴの仲間は7亜目25科266属でおよそ1,270種類の大グループを形成している。
 カサゴ目を特徴づけるのは目の下の骨(眼下骨棚)の形状である。フランス人の分類学者Cubeは、一般的な魚類ではL字型をした第三眼下骨が、逆T字型になっている一群の魚類をカサゴ目として分類した。最初の一匹の特徴が子孫達に引き継がれていると考えたのだ。研究者たちは長い間、その分類が完璧だと信じてきたのだが、遺伝子研究の発達によって、逆T字型の魚類はどうも1系統だけでないようだと判ってきた。
 つまりカサゴ目は、共通の先祖を持つ単系統のグループではなく、いくつかのルーツが混じった多系統のグループだった訳だ。メバルやオコゼ、カジカなどはよく似ているので疑うまでもないが、棘どころかウロコすら持たないホテイウオやクサウオなど、明らかに印象の異なる魚を仲間に入れたのは間違いだったのではないか。今後の研究によって大きく編成が変わることが予想される。

キジハタ
Epinephelus akaara

 瑠璃色の眼が雉(きじ)の羽根を連想させることからキジハタと命名されたようだ。関東以外ではアコウという地方名も一般的だが、これは、特徴のあるオレンジ色の体色からアカウオ→アコウとなったものだ。学名のEpinephelusとはラテン語でハタやメロのこと。Akaaraはアカァーラではなく、なんと「赤アラ」のローマ字表記である。命名者はシーボルト。彼には自分の名前を学名につけるイヤなクセがあったが、キジハタのときは居住地長崎での呼び名である赤アラをそのまま採用してくれた。ちなみにアオハタ(タカバ、アオナ)は Epinephelus awoaraで、これは「青アラ」が由来である。
 キジハタが多いのは岩の凸凹が大きくて体を完全に隠せる荒根の岩礁である。海底がゴロタ石や平たい岩盤の場所にはあまりいない。体が赤いのは保護色だから、紅色藻の生えた場所が本来の居場所になる。もちろんショアからも釣れるが、明るいうちは緑色の藻が繁っているような場所にはいないことが多い。キジハタもアカハタも紅色藻の中でこそカモフラージュ性を確保できるからだ。
 堤防から釣るなら夜釣りが圧倒的に有利である。ちもとホタルでエサをアピールし、テトラの際や堤防の切れ目、または潮通しのいい場所をロングキャストで広範囲に探る。活性が高いときは中層まで浮いてエサを追うから、少しくらいポイントから外れていても、誘われて出てくることがある。
 釣り座から移動できないときは生きアジやイワシの泳がせ釣りが適している。コツはとにかく活きのいいエサを使うこと。死んだエサではまず釣れない。眼がいい魚なのでハリスを細くして最低でも50cmはとる。
 足場のわるいテトラの上から釣るときや、探り釣りをするなら、手間のかからない プニイカ がお勧めだ。バイトがあっても千切れないので手返しは最高である。普通、ワームをいったん口にした魚は、次はヒットしないけど、塩素を含まず生分解性の高い プニイカ なら追い喰いしてくるし、ケミホタル25 をセットすれば、飛んでいく軌跡が見えるのでポイントを狙い打ちにできる。

メバル
Sebastes inermis

 一般的に外洋性の魚と中・深海魚は赤色に対する視感度が低いのだが、メバルは赤色に非常に敏感に反応する。月明かりのない暗い夜、ワームを赤色に変えただけで入れ喰いになった経験はないだろうか。または、それまで喰い盛っていたのに、カラーチェンジしたらパタリと喰わなくなって、元の色に戻したらまた入れ喰いになったこと。メバルを釣るときは赤色のワームがキーになる。
 水温と透明度によってヒット率は変わるけれど、冬は濃い赤または黒にヒットが集中する。夏になるとクリアとパールに釣果が移っていき、秋と春には透明赤と透明ピンクにアタリが集中するようになる。年間を通じて万能なのは、パールとクリアと赤の3色だ。昼間ならパールの釣果が圧倒的で、赤にヒットする確率は数パーセントしかない。ところが、いったん夜を迎えると、赤色ワームの効果は絶大になる。だから夜釣りをするなら年間を通じて赤とパールの2色だけで問題ない。アピールカラーだとスレが早いが、赤とパールならいつまでも釣れ続く。
 どの季節、どのカラーであれ、表面が滑らかでバイブレーションが発生しないワームはヒットしにくい。群れをつくるタイプの魚は、常に側線レーダーでほかの魚との距離を測っているためバイブレーションに敏感である。テールが長すぎて、アタリがあったのにフッキングしないときは、鈎が口の中まで入るように切って短くするが、このときも切るのはヘッドの方である。テールを切ってしまうとアタリは明らかに激減する。
 メバルは外灯がない港湾でも色を見分けるほど優れた色感を持っているうえ、明暗差に対する感受性も高い。しかし、いかに暗視能力の優れたメバルといえども、暗い海中を素早く動く物体を捕捉するには限界があるから、獲物を眼でロックオンして襲いかかれるようにデッドスローでリーリングする。それもできるだけ姿を見られないように釣るのである。とくに、外灯を背にしたときは、水面に影が落ちないように注意しないと怯えて喰わなくなる。姿を見られないよう、姿勢を低くしてキャストするだけでも釣果が増える。

アイナメ
Hexagrammos otakii

 カサゴ目に分類されているアイナメだが、一般的なカサゴとは体型があきらかに違うし、口も受け口ではなくて顔の先端についている。頬の辺りのヨロイのような棘もない。また繁殖期のオスが黄色い婚姻色になる、メスが産み付けた卵を外敵から守るなど、生態もユニークである。
 ウロコが細かくて油を塗ったように滑らかなので、各地でアブラメとかアブラコ、アブラウオなどと呼ばれている。それで、アイナメの名前は、鮎(あゆ)のように滑(なめ)らかの「アユナメ」が由来だとする説が生まれた。
 アイナメには縄張りを作る習性があって、まるで鮎と同じだから鮎(あゆ)並(なみ)だとする説もある。ほかに、食べたときに鮎並みに美味しいからだという説。さらに、自分の子供を愛するから愛魚女だ。いやいや愛する女性のニオイがするんだ。卵をライバルのオスから守るときに互いの口を噛み合うから相嘗だという説もある。
 成魚の特徴として、同じ底性魚のキスやハゼのように浮き袋が退化していることが挙げられる。稚魚の頃までは残っているが、成長したアイナメは中層に浮いて静止することができず、浮くためには泳ぐ必要がある。かつては浮き袋を持っていたのだが、生活圏を浅場の海底に特化した結果、浮く必要がなくなって小さく退化したらしい。
 泳ぐのは得意で、ルアーを追う距離が長いから澄み潮が釣りやすい。エビ、カニ以外にイカやウニ、巻貝も食べるほど雑食性がつよいので、エサ釣りの場合は、その時期のアタリエサを探ることが重要である。
 ロックフィッシュ用のワームには様々なカラーバリエーションがある。ホワイト(パール)、透明、ブラックの無彩色鉄板トリオ以外では、ごく大ざっぱに言って、赤系統のヒット率が高くて青系統のヒット率は低い。では中間の緑色はどうなのか。緑色のワームはヒットのバラツキが大きく、釣れる場所と釣れない場所がはっきりしている。そして、釣れる場所には黄緑色をしたアイナメの稚魚がいるのである。つまり、アイナメの稚魚やイソスジエビ、コシマガリモエビなど緑色のエサを食べている魚だけが緑色のワームに反応するのだ。

ソイ
Sebastes zonatusschlegeli Hilgendorf

 魚をサカナと読むのは訓読みで、漢語の発音である音読みだとウオである。中国では魚をユゥ(yú)と発音していて、これが日本人の耳にはイゥと聞こえる。漢字が日本に輸入されたとき、魚という文字といっしょに読み方も伝わってきて、そのとき以来、イオまたはウオという読み方が定着した。沖縄では魚をイュというし、本土の漁師さんにもイオと呼ぶ人は少なくない。
 ソイの「イ」はこのイオから来ている。「ソ」は磯(いそ)のことだ。語源としては「磯場の魚」という意味で、もともとはイソイオだったのが短くソイとなったようである。(これには異論があってアイヌ語で穴を意味するスイが由来とする説もある)
 ソイは磯魚の集合名詞であり、クロゾイのほか、ウスメバル、エゾメバル、エゾムラソイ、キツネメバルなどを含んでいる。これらの魚は形がよく似ているうえに、体色の個体差も大きいので区別が難しい。そこで、ごく大ざっぱに、眼が大きければメバルとして、大きくて色が黒っぽければソイとしているようである。メバルの腹部を海底に押し付けて安定をよくした魚がカサゴだから、もちろんカサゴにも似ていて、生息環境にも食性にも共通点が多い。ソイは東北から北海道にかけての人気魚である。九州にもちゃんと棲息しているのだが、知名度が低いためメバルやカサゴと間違えられることが多い。
 ベッコウゾイやムラソイは昼釣りが一般的だが、クロソイは圧倒的に夜釣りの方がよく釣れる。エサ釣りだとLEDウキに中通しオモリ3号くらい。スイベルをオモリ止めにして、ハリスは4号を50cm。エサはなんでもOKだ。最初はタナを底近くに合わせて、だんだんと層を上げていき、海面から2mくらいまで探ってくる。外灯があるときは浮いているかも知れないので場を荒らさないよう上から下へと探っていく。
 ルアーの場合はジグヘッドにカーリーテールかシャッドテールで、中層をスイミングで水平方向に広く探っていく。ヒットがなければジグヘッドを軽くしてスピードを緩くしてみる。底根の粗い場所を釣るときはテキサスリグに変更すればいい。

ロックフィッシュの繁殖戦略

 外洋性魚のほとんどは、おびただしい数の分離性浮遊卵を産んで、あとは波まかせ風まかせの戦略をとっている。海の平均の深さは3700mくらいで水温も2~4℃しかない。海底は砂漠状態なので、卵を産み付けるのに適していないし、孵化した仔魚のエサも乏しいのがその理由である。
 太陽光のあたる表層ならプランクトンが多くて食料に困らないうえ、波や風に運ばれていった先で生活圏を広げることも可能だ。潮流にバラ撒いて密度を薄くすれば食害も集中しないし、広い外洋なら食べられる前に大きくなれるだろう。100万粒の卵のほぼ全部が食害に遭っても2粒が大人になって子孫を残せればいい。実際、エンジン付きの漁船が出てくるまで、魚類はこの方法で大繁栄していた。
 イカの多くは卵塊を海底に産み付ける。ところがスルメイカは外洋でゼリー状の卵塊を産み、漂流している間に大きく成長させる戦略を選んだ。これも一時は年間27万トンもの水揚げを誇ったものの近年では半減してしまった。
 ロックフィッシュの中では、例外的にキジハタが浮性卵を産む。アイナメは沈性卵を岩礁に産み付ける。敵は多いけど孵化するまでは、オスが辛抱づよく食害から守り抜く。
 カサゴ類のごく一部に、凝集性浮遊卵を産む種類がいるが、残りのすべてのカサゴ類、およびメバルとソイは、メス親の胎内で卵を孵化させ、仔魚になるまで育ててから外部に放出する卵胎生魚である。
 生物の一般論として、進化が進むほどに多産から少産に向かう傾向が確認されている。膨大な数の卵を捨石にして、あとは運に任せるような方法をとらなくても、すでに遊泳力を備えた仔魚を生めば、競争の厳しい場所でも生存率を飛躍的に高めることが可能だ。
 沿岸は棲息に適しているだけに様々な魚種の住処となっている。海藻が多くて、ハッチした仔魚たちの隠れ場所が多いのはメリットだが、仔魚ばかりではなく、その仔を産みに来た親もいる。ベラやハオコゼなど周囲はライバルだらけなので、卵があればあっという間に食べ尽くされてしまう。つまり、卵胎生でなければ生き抜くのが難しい環境なのである。