10 特別授業 : 魚類の歴史

5分でわかる! 魚類の歴史

 およそ4億9000万年前~5億4000万年前の5000万年間をカンブリア紀と呼びます。カンブリアとは英国ウェールズ地方の古い呼び名で、カナダのバージェス頁岩(けつがん)をはじめ、ウェールズ地方と同じ年代の岩盤からは数多くの古生物の化石が発掘されています。
 この時代、すべての動物はまだ海中にいました。クラゲのような無脊椎動物の全盛期を経て、初めて眼を持った生物が登場するのがカンブリア紀です。生物は眼を持つことで、敵や獲物の大きさ、正確な位置などを知り、自分自身の装備を発達させて種の多様性を増してきました。
 中期にはナメクジウオに似た脊索動物が誕生します。エラとヒレはあるもののウロコを持たず、まだ顎が備わっていなかったため、円形の口でエサの体液を吸い込むように補食していました。肉食動物が少なかった時代でもあり、泳ぐ動作は緩慢だったと考えられています。

 次にくるのがオルドビス紀の5000万年間です。この時代にはウニやナマコ、ヒトデなどが爆発的に増えています。円形の口をした甲冑魚(甲皮類)も誕生しました。オルドビス紀に続くシルル紀に入ってから、上下の顎を備えた甲冑魚(板皮類)が登場したものの、頭部だけを装甲して可動部を保護できない不完全な構造だったため、やがて絶滅してしまいました。
 重い外骨格の甲冑魚に素早い動きは無理だとしても、顎で肉を噛みちぎるほうが、エサをしゃぶるよりも優位なことは明らかです。上下に動く顎は、それまでの藻や腐肉を食べる静的な生活から、動物を追って補食する動的な生活へと変化をもたらしました。魚類の発生から5000万年以上を費やして獲得した顎の構造は、その後のすべての脊椎動物に引きつがれていきます。
 4億2000万年~3億6000万年前のデボン紀を迎えると、サメの仲間などの魚食性魚が次々に誕生しました。デボン紀の6000万年間は、多くの種類の魚類化石が出現することからから「魚の時代」とも呼ばれます。
 魚類の繁栄に大きく貢献したのは、体の中心に硬い骨を持った硬骨魚たちです。硬骨魚は淡水域に進出した魚類から生まれました。川の流れに逆らって泳ぐため、力強くスムーズに動く筋肉と、それを支えるべく骨格が発達し、さらに素早い泳ぎをコントロールするために脳が発達したことで海への再進出が可能になったのです。
 ハイギョやシーラカンスの仲間もこの時代に登場しました。空気中での呼吸を可能にする肺と骨格のある丈夫なヒレ。さらに皮膚を乾燥から守るウロコを獲得したことで、魚類は陸上への進出を果たし、のちに両生類から爬虫類、鳥類、哺乳類へと分岐していきます。

 デボン紀の魚類の多くは、魚食性恐竜やサメから身を護るために、象牙質でできた硬いウロコで覆われていました。骨が表皮で発達したものがウロコです。ガーやアロワナのように、象牙質で菱形のウロコは硬鱗と呼ばれます。一枚板の装甲と違って、動きの自由度は改善されるものの、敵に襲われたときに牙が通りにくいだけであって、筋肉へのダメージは避けられません。そこで魚類はさらに外装を軽く仕上げ、内部骨格を丈夫にして、噛まれる前に逃げる方向に進化しました。
 イワシやアジなど現代の魚類の大多数は、コラーゲン繊維の上に骨質層がコーティングされた薄片状のウロコを持っています。この軽量なウロコを円鱗と呼び、硬骨魚類の中でも、この円鱗とウチワ状の尾ビレを備えたものが真骨類に分類されます。その最初の一匹はおよそ1億年前の白亜紀に登場したニシンの仲間でした。
 ウロコが薄くなったために失われた強度は重ね合わせることでカバーできます。胴体の屈曲性が劇的に改善されたおかげで、かつてない高速な動きが可能になりました。外装が軽くなって重心が中央に移り、直進安定性だけでなく俊敏な回転性能も獲得したことで現代の魚が完成したのです。およそ28,000種とされる魚類のうち、この真骨類に所属する魚類は20,000種にのぼります。地上種を含めて全部で63,000種の脊椎動物中、最大のグループであり、多様性(種の豊富さ)を尺度とする限り、もっとも成功したタイプといえるでしょう。
 魚類はいまやチベット高原にある標高5,030mのプマユムツォ湖から、水深8,000m以上の深海にまで適応放散しています。どちらも現時点では非常に厳しい環境ですが、地球的規模の変化が起こったときには適応できる可能性を秘めています。棲息する環境次第では、運動性能よりも浮遊性能、擬態や集団行動などが優先されるケースもありますが、水中環境の大きな変化に適応するには、画一的で融通の利かない生物群よりも、多様性を持った生物群の方が有利なのは間違いありません。
 5億年前から進化を続けてきた魚類は4億年もの時間をかけてその基本構造を完成させました。生態系の下位の魚たちは防御の方向へと、上位の魚たちは攻撃の方向へと、弱肉強食の世界への対応してきた結果が現在の姿です。顎を作り背骨を作って、円鱗を持つまでに4億年。ひどく遅い歩みにも感じられますが、アフリカのビクトリア湖が1万2000年前に干上がったあと、最初に住みついたたった数種類のシクリッド(カワスズメ科)が700種類にまで分化した例からすると、魚類の適応と進化のスピードは想像以上に速いことが判ります。

*白亜紀(1億5000万年前~6500万年前)
*ジュラ紀(2億年前~1億5000万年前)
*三畳紀(2億5000万年前~2億年前)
*ペルム紀(3億年前~2億5000万年前)
*石炭紀(3億6000万年前~3億年前)
*デボン紀(4億2000万年前~3億6000万年前)
*シルル紀(4億4000万年前~4億2000万年前)
*オルドビス紀(4億9000万年前~4億4000万年前)
*カンブリア紀(5億4000万年前~4億9000万年前)
註:オルドビスもシルルもウェールズに住んでいた古代ケルト部族の名前。デボンは英国南西部の州名。英国の地質学者が中心で研究したため英国関連の命名となった。石炭紀は石炭が取れる地層だから。ペルムはロシアの地名。三畳は三色の地層が重なっていたため。ジュラはフランス東部のジュラ山脈に由来。白亜とは石灰岩のこと。

 ロックフィッシュの仲間で一番大きく成長するのがハタ科のタマカイです。英名はGiant Grouper。繁殖時にグループを作ることからグルーパーと呼ばれます。体長2.7m、体重は400kgに達するというからその大きさはほとんどジュゴン並みで、サメをも喰らうと伝えられています。このモンスターの胸ビレには肉鰭類のシーラカンスのように、骨の入った腕があります。両者は姿も習性も似ていてデカイくせに岩陰が大好き。屋久島周辺のタマカイはテトラに潜んでいるというから、やはりロックフィッシュの仲間なのは間違いありません。

 英語圏でもRockfishといえば日本と同じでカサゴやメバル類の総称なのですが、その守備範囲は非常に広くて、メヌケやキンキといった深海性の赤魚や、銀色のウロコをした中層魚のストライプトバス、地域によってはナースハウンドと呼ばれる小型のサメを指すこともあります。
 海藻の生えた岩場を好む魚たちに共通の特徴として、カモフラージュ性の高さが挙げられます。とくにカサゴ類は姿形が似ていて見分けにくいため、大西洋と太平洋の北部ではおおまかにRed-RockfishとBlack-Rockfishの二色に分類して、さらにトゲの硬さで2つに分けています。個々の種類はBlack、Blue、Bronze(銅色)、Brown(茶色)、Grass(草色)、Gray、Green、Olive、Pink、Vermilion(朱色)などと見た目の色で呼ぶことが多いようです。

日本のメバルの色の違い

アカメバル
生体赤色 / 死後赤色

全体に赤っぽい体色をしているので一般的に赤メバルとか金メバルと呼ばれる。体色の変化が大きく、生時褐色のクロメバルと混同しやすいが体高が低くてスマート。さらにウロコが粗い。ヒレが黄色っぽい。胸ビレが長いことでも見分けが可能。藻の多い浅い場所に居着くタイプで全体的に小ぶり。資源量は多い。

シロメバル
生体褐色~黒色 / 死後茶色

関東で黒メバルまたは茶メバル。西日本で黒メバルまたは本メバルと呼ばれる。アカメバルでなければほとんどの場合シロメバルである。体色は濃い褐色だが、死んだクロメバルほど真っ黒ではないためシロと名付けられた。やや体高があり、腹ビレと尻ビレが褐色なのでアカメバルと区別できる。岩礁帯のやや開けた場所に多い。

クロメバル
生体青色 / 死後黒色

俗称を青メバル、青地、ブルーバックとも呼ばれるように背中に青い部分があるのが特徴。潮に乗って浮き、表層でヒットするため背中がサバのように青くなっている。体型はズングリとして非常にパワフル。性格は乱暴。西日本の外洋に棲息するが数は少なく、死ぬと黒く変色するので市場では黒メバルとして流通する。

一目でわかる進化度の見分け方

 魚類の形態はじつに様々です。いかにもスピーディに見える細長い魚も、ほとんど球形に近くて遊泳力の乏しい魚もいますが、意外にもこれらと進化には相関関係が認められません。進化の度合いを知る目安として、原始的な魚類ほど、運動性能に力点を置いた構造になっていないことが挙げられます。

① 運動能力の違いはヒレに現れます。背ビレの形状は魚類の系統と関係が深く、ごく大ざっぱに言って、初期の魚類の背ビレは一基だけでした。次に、俊敏に動くために背ビレを2基備えた魚類が誕生しました。代表的なところでスズキの背ビレは二基あります。カサゴ目の背ビレは膜で融合しているため一基に見えますが、これも本来は二基です。マダラやスケトウダラは三基もの背ビレを備えています。
② 目安のひとつとして胸ビレの位置にも注目してください。胸ビレはもともと腹の下側で海底に接する位置にありました。それがより高速でも安定するように、上へ上へと体の中心線近くまで移動してきました。また、腹ビレも最初はお尻に近い場所にあったのが、だんだんと頭部に近い位置へと移動してきました。発生の古いニシンやサケはほとんどお腹の中央にありますが、カサゴなどの腹ビレは胸ビレの真下まで移動してきています。腹ビレが胸に近いほど新しい設計だと言えます。
③ 骨の数も進化と密接にリンクしています。進化するにしたがって、複雑な機構を手に入れ、骨の数が増えるかと思いきや、じつは進化するほどに、使わない骨が癒着・融合して少なくなってしまうのです。この、進化の先端にいるほど骨の数が減る現象はウィリストンの法則と呼ばれています。