01 タチウオの生態 その1

分類

【 Trichiurus Japonicus 】
【 Trichiurus Lepturus Linnaeus 】

 タチウオはサバ亜目タチウオ科に属しています。魚類5億年の歴史のうち、およそ5千5百万年前に出現したサバ亜目には、浅海に棲む種類と深海に棲む種類の両方が含まれているため、ルーツは深海魚ではないかと考えられています。タチウオ科の魚類は世界で47種類ほど確認されていますが、やはりそのほとんどが深海から大陸棚にかけて棲息しています。
 日本近海に分布する14種類の中に、釣りの対象魚であるタチウオ属が3種類含まれています。おなじみの本タチウオと見た目がそっくりで背ビレが黄緑色がかっているテンジクタチは外洋性で、近畿以西の太平洋側で見られます。宮崎県ではキビレと呼ばれ、最大 2m 近くまで成長する人気魚です。
 オキナワオオタチは沖縄から奄美大島にかけて分布しています。一般的にタチウオの垂直分布は水深 200m までですが、オキナワオオタチは水深 350~400m の砂泥地に潜んでいます。タチウオと比べるとやや体高が低く、鼻梁と上クチバシの間に段があります。これも 2m 以上に成長する大型種です。

日本近海のタチウオ科魚類

タチウオ属 タチウオ / オキナワオオタチ / テンジクタチ
タチモドキ属 タチモドキ / ヤマモトタチモドキ
クロタチモドキ属 クロタチモドキ
ユメタチモドキ属 ユメタチモドキ / ヒレナガユメタチ / ヒレナガオオメユメタチ
ナガユメタチモドキ属 ナガユメタチモドキ
トゲタチウオ属 トゲタチウオ
オシロイダチ属 オシロイダチ
カンムリダチ属 カンムリダチ
レピドプス属 オビレタチ

 タチウオ科の魚類はサケガシラやリュウグウノツカイとよく似ていますが、分類上はかなり離れたグループに属しています。体表が鏡のように反射するのは、自分に周囲の景色を映し込んで光学的なステルス性を得るため。帯のように扁平な体型には、移動時のエネルギー消費を抑える役目があります。別々の種類でありながら、同じような環境に適応した結果、同じような形状を獲得することを収斂進化と呼びます。

伝家の宝刀 「 タチウオ 」

 太刀魚と表記されるように、体型が太刀に似ていることから命名されました。立って泳ぐから立ち魚だという説もありますが、明るい昼間は沖の深場に潜んでいます。夜になって岸近くまで来たとしても、外灯がない時代にその姿を見ることは難しかったでしょう。普段人々が目撃しにくいその姿勢よりも、流通時に目につく特徴的な体型からきたと考えるほうが自然です。江戸時代末期の 「 魚鑑 」 という書物にも 「 太刀の魚 」 として、「 鱗はなく、色は雲母紙のごとく、状狭長にして刀剣に似たり 」 と紹介されています。

英語圏での呼び名

saberfish サーベル
cutlassfish 剣 / 刃物
scabbardfish 刀のサヤ
ribbonfish リボン
bandfish バンド / ベルト

 上記のほか、まれに Hairtail 、 Silverfish とも呼ばれる。Ribbon fish は米国・豪州ではタチウオを差すが、英国ではリュウグウノツカイのことがある。また Band fish もミズウオやスミツキアカタチなど帯状の魚全般を差すことが多い。総じて欧米では魚類に関する関心が薄く、名称だけで魚種を特定することは難しい。

地方名

カタナ / ヒラガタナ / ギンダチ / シラガ / シラ / ハクウオ / ハクナギ / ハクヨ / ヒモ / タチ / タチオ / タチノウオ / タチノヨ / タチヌイユ / タチンジャ / ダツ / サーベル / サワベル / ダイトウ / タビノヒモ

 身近なだけに多くの呼び名があるが、英語名と同じく外観から来たものばかりで、立って泳ぐ姿勢からの命名は見当たらない。中国語でも 、刀魚、白帯魚、牙帯、柳鞭魚などすべて見た目からの命名となっている。韓国ではカルチと呼ばれる。カルは刀のこと、チは魚のことなので、やはりこれも 「 刀-魚 」 の意味である。

成長と産卵

 早い個体では1歳 ( 全長 22cm 程度 ) から産卵を始めますが、通常は3歳 ( 全長 70cm 程度 ) で直径 2mm 弱の浮遊性卵を4万個ほど、5歳では6万~8万個を産むようになります。寿命は通常6~8年程度ですが、15歳までは成長を続けることが確認されています。
 2006年6月に沖縄で 5.4kg 全長 240cm のモンスターが釣り上げられました。これはたぶんオキナワオオタチだろうと思われます。同年11月に錦江湾で釣られた 5.2kg 175cm は本タチウオでした。2004年10月の新聞報道によると、長崎県松浦市で水揚げされたタチウオは全長 2m で 10kg もあったそうです。
 産卵は大きく分けて春と秋の2回です。海水温が下がると年1回だけのことも、適温で安定した場所だと、ほぼ通年で産卵することもあります。また1歳で産卵する群れもあれば、2歳以上にならないと産卵しない群れもあります。
 タチウオの性比は メス3対オス1程度で、雄性先熟型の性転換を行うためメスが多数を占めます。ふだんはメスを中心にした群れと、オスを中心にした群れに分かれていて、産卵期になると融合して水面で産卵します。オスは3歳からほとんど成長しませんが、メスはそれ以降も順調に成長するため、良型が釣れたときはすべてメスばかりで、オスがいないという不思議な現象が起きてしまいます。

漁業資源

 平成11~20年のタチウオの平均漁獲高は17,628トンでした。ピークだった平成11年からは30%以上ダウンしたものの、ここ数年は横ばいを続けており、クロマグロの15,168トンや天然マダイの15,180トンを上回る水揚量となっています。海外からの輸入も1,800~3,000トンあるので、一年間にざっと20,000トンが消費されている計算になります。
 エリア別では瀬戸内海が9,200トンと突出しています。東シナ海が3,500トン、太平洋南部と中部の合計も3,500トン。日本海は太平洋北部と合わせても160トン程度です。豊後水道を挟んだ大分県と愛媛県が上位にあり、紀伊水道両岸の和歌山県、徳島県の漁獲量も多いことから、内湾や水道に好んで分布する魚種だと判ります。

タチウオ漁獲高ランキング

1位 愛媛県 3,222トン
2位 大分県 2,549トン
3位 長崎県 2,152トン
4位 和歌山県 1,921トン
5位 兵庫県 959トン
6位 広島県 938トン
7位 徳島県 832トン
8位 山口県 599トン
9位 熊本県 583トン
10位 宮崎県 485トン
[ 農林水産省 平成20年漁業・養殖業生産統計年報 ]