〜 まずはスズキの分類や名前の由来などの生態について解説します! 〜

隠れていたシーバス

 日本でもっとも一般的なマルスズキの学名は ” Lateolabrax Japonicus ” です。語源の記述で評価の高いセンチュリーディクショナリーで Lateolabrax ( ラテオラブラクス ) の意味を調べてみると、 ” A genus of serranoid fishes on the coasts of China and Japan. ” 「 中国と日本の海岸で発見されたハタ科に属する魚 」 と記されています。スズキの分類は不安定で、一昔前まではハタ科の魚だと思われていたのです。
 その語源については、” New latin, apparently from Latin latere, hide, + Greek , a sea-fish. ” とあり、「 英語の hide と同じ意味を持つ新ラテン語の latere に、ギリシャ語の labrax ( 海の魚 ) が付加された語である 」 と説明されています。
 ラテン語の latere は 「 隠れた 」 とか 「 見逃された 」 、 「 知られずにいた 」 などの概念を持つ言葉です。labrax とはヨーロッパシーバスのこと。
学名後半の Japonicus は 「 日本産 」 、あるいは 「 日本で発見された 」 という意味なので、マルスズキの学名は 「 日本の隠れていたシーバス 」 と訳すことができます。
 フランス人 Cuvier が日本のスズキに学名をつけたのは1828年。当時すでにヨーロッパシーバスの存在が一般的だったため、新しく見つかった東洋のスズキに 「 見逃されていたシーバス 」 「 最近発見されたシーバス 」 という意味を込めたのだろうと思われます。
 
■ 註 : ラテン語の latere は現代英語の lurk や hidden に相当する。lurk は単純に 「 潜む 」 という意味で、” lurk in the night ” 「 夜に闇に潜む 」 のように使われる。hidden は 「 隠された 」 とか 「 秘密の 」 というニュアンス。latere を語源として 「 遅れ 」 とか 「 最近 」 といった意味をもつ英語の late が発生した。

[ COLUMNS ] 世界のスズキ

マルスズキは日本と韓国の一部にしか分布していませんが、生物学的には、地理的に遠く離れたヨーロッパシーバスとごく近縁の種類です。ヨーロッパにはヨーロッパシーバス一種類だけしか棲息していないため、伝統的に短く 「 バス 」 と呼ばれてきました。海のバスだとか淡水バスだとか使い分ける必要がなかったのです。ところが、養殖技術の発達とともにバス料理の人気が高まってくると、養殖業者とレストラン側の経営的な思惑が一致して 「 シーバス 」 という目新しい言葉が使われるようになりました。



Sea-bass の Bass は Bhors からきています。その Bhors は魚の Perch に由来しています。Perch の語源は剛毛とか逆立つという意味で、硬骨魚の背びれの鋭いトゲを表しています。オーストラリアでカサゴの一種を Gurnard perch と呼ぶ例があるように、Perch という言葉は、アカメ科やスズキ科、ハタ科、ウミタナゴ科などを含む中・大型魚の総称として使われています。そのためか、発展形であるシーバスもまたいくつかの種類の総称になっています。イギリスのシーバスはモロネ科ですが、北米の東海岸でシーバスといえばハタ科のブラックシーバスのこと。西海岸にもニベ科のホワイトシーバスがいます。
日本のスズキは固有種なのでジャパニーズシーパーチ ( Japanese sea-perch ) またはジャパニーズシーバス ( Japanese sea-bass ) と呼ばれます。
ちなみにイギリスには Bass というブランドのビールがありますが、これは魚のバスではなく醸造所の創始者の William Bass 氏に由来するもの。飲んべえさんたちがパブでこのビールを飲むときには、まるで生きた魚を握っているかのようにボトルをブルブルと動かすのがお約束事になっています。

スズキの分類

【 じつは無所属? 】

 硬骨魚綱スズキ目スズキ亞目スズキ科に属するスズキは、約6500万年前の新生代に誕生しました。スズキ目にはゲンゲやタイワンドジョウ、キノボリウオなど17亞目148科、およそ9,293種の魚類が含まれています。分類上、スズキはあたかもこれら多数を代表するかのような位置づけとなっています。しかし日本のスズキが、バラエティ豊かなスズキ目魚の典型であり、正統だというわけではありません。
 魚類の分類は国際的に、ジョセフ・ネルソン博士の 「 Fishes of the world 」 がベースにされていて、スズキ目は Perciformes 、スズキ亞目は Percoidei で表されます。語幹の Perc… はパーチのことですが、日本にはパーチとよばれる魚がいません。パーチ目と言っても通じないため、日本における代表種であるスズキの名が付けられました。ネルソン博士の分類では、スズキはモロネ科に近いとするだけで、どの科に所属するかまでは示されていません。そこで日本では暫定的な処置として、新しくスズキ科を設けてその中にスズキを入れました。ところがその帰属はまだはっきりと確立されておらず、やはりモロネ科に含めるべきではないかという意見も出ています。
 
【 寄合い世帯の代表 】

 たくさんの魚種を包括するスズキ目ですが、本当にスズキはゲンゲやキノボリウオと同じ系列の魚なのでしょうか。スズキ亞目 ( 2865種 ) だけをとっても、シイラ科やハタ科、コバンザメ科など72科約530属が含まれており、分類の基準となる形態があまりに違いすぎるように思えます。じつはスズキ目だけは、ほかの目と違って単系統ではなく、まだ系統が確定していない魚類をまとめた多系統の分類群なのです。したがってこれがスズキ目の特徴である、といった決定打を持ちません。
 共通の先祖を持つから共通の特徴を持っているのか、同じ環境に適応した結果として同じ特徴を持つことになったのか。進化と分化の交差点には、今後の研究を待たないと所属がはっきりしないたくさんの魚たちがいます。彼らのとりあえずの居場所がスズキ目であり、どの科がどの亞目に含まれるか、いまだに分離や統合が行われている状態です。
【 沿岸生態系のトップ 】

 スズキの形態的な特徴ではなく、ライフスタイル上の特徴として、生息範囲の広さが挙げられます。汽水域を好むスズキは塩分変化への適応力が非常に高く、卵から孵化するときの一時期を除いて、いつでも淡水の河川を利用することができます。ボラも汽水域にいますが、完全な淡水域に棲むことはありません。サケやアユ、シラウオも川に遡上するものの、生活史の一時期だけに過ぎず、スズキに匹敵するほどの広塩性を持つ魚は、ほかにクロダイ ( チヌ ) くらいしか見当たりません。
 汽水域だけでなく、塩水域や淡水域までも棲息範囲にすれば、エサ不足への対応力が劇的に高くなり、速く大きく成長することができます。海水温が高い時期には川に避難してウグイやアユを追うことも可能。スズキが沿岸の生態ピラミッドでトップの食地位を占める魚になれたのは、昔は琵琶湖にも棲息していたとされるほど柔軟な、淡水への適応力にあります。
 

名前の由来

【 スズキは四腮魚 】

 「 」 は奈良時代 ( 710〜784年 ) 以前に中国から伝わってきた漢字で、現代中国でも ( 註1 ) と呼ばれています。この ( ろ ) をなぜ日本ではスズキと読むようになったのでしょうか。
 つくりの ( ろ ) の本来の意味は庵 ( いおり ) のことです。しかし は、魚に、 が持つ意味を組み合わせて作った会意文字ではありません。類型を表す意符である魚に、発音記号としての が付加された形声文字なので、 の意味からスズキの由来を探ることはできません。
 全漢字の75%以上は、すでに存在していた物事の音 ( おん ) に合わせて、後付けで同じ発音の文字を組み合わせて作られています。 が読みのための音符として使われた例はほかに などがあります。
 中国の漢字字典である康煕字典 ( 1716年 ) にも 「 」 の音は 「 」 であると書かれています。
 その三行目に 「 は俗称で四腮魚と呼ばれる 」 とありますが、どうやらこの 「 四腮魚 」 がスズキの語源のようです。
 四腮魚は現代中国の標準語では ( スーサィユゥ ) と発音されます。スーサィまではいいとしても最後のユゥ ( 魚 ) の音が一致していません。しかし日本で魚を音読みするとギョになります。正確には漢音での読み方がギョ、呉音だとゴです。漢音とは奈良時代から平安初期にかけて、遣唐使や留学生によって輸入された漢字の読み方のこと。呉音とはそれまでにすでにあった読み方で、ギョが伝わって来るまで魚はゴと発音されていました。
 当時の読みである漢音だと四はシです。腮はシまたはサイ。魚はギョなので四腮魚はシシギョまたはシサイギョになります。シサイギョでは日本人の発音体系になじみにくいので、シシギョから、シシキ → スズキへと変化したのでしょう。正確な発音は不明ですが、712年の古事記に 「 須受岐 」 と書かれていることから、当時すでにスズキまたはスジュキという呼称が一般に広まっていたと判断できます。
 語源については諸説あって、新井白石の 「 東雅 」 ( 1717年 ) にはスズキのススは 「 小さい 」 であり、キは 「 」 であると書かれています。貝原益軒の 「 日本釈名 」 ( 1699年 ) ではススは 「 清 ( すす ) いだように白い 」 で、キは 「 魚 」 だとされています。そのほかたくさんの魚名本で、キは魚を表す接尾語だと説明されているので、魚 ( ぎょ ) を 「 キ 」 と読むこともそう不自然ではないようです。あるいは四腮魚は、魚をギョではなく、キと発音する中国のどこかの地方を経由して、日本まで伝わって来た言葉なのかもしれません。
 語尾がギやキとなった魚名はスズキのほかに、イサキ、キンキ、イシナギ、カズナギ、スギ、ワカサギ、クロサギ、ウナギ、ゴギ、ギギ、ハチビキなどがあります。語源は違うと思われますがヒイラギ、ハギ、コトヒキ、フエフキなどの例もあります。
 
■ 註1 :  のほかに などがある。 の簡体字。 も発音のための記号である。
■ 註2 : 松江の はスズキではなくカジカ科ヤマノカミではないかとする説がある。しかし本朝食鑑ではこれをセイゴのことだとしている。康煕字典と倭名類聚抄に 「 に似た魚 」 とあることから、オヤニラミの近縁種ではないかとも考えられる。真相は不明だが、いずれにしても本筋である 「 = 四腮魚 」 に影響しないことからここでは触れなかった。

 

[ COLUMNS ] 韓国では農魚

スズキは韓国では農魚 ( ノンオ ) と呼ばれています。農業のノに魚 ( ウオ ) のオです。
中国から日本に漢字の 「 」 が伝わってきたように、韓国にも同じ漢字が伝わっていきました。本来の読みは中国と同じ口です。しかし韓国語では言葉の頭にLやRが来ることを嫌うため がノと発音されます。盧泰愚 ( ノテウ ) 大統領のノですね。李 ( リー ) さんも、頭に Mr が付けばミスターリーと呼ばれますが、文章の最初にくる場合にはLの発音を避けてイさんになります。
 韓国語の習慣に従えば、スズキは と書いてノと読まれるのが本来の形なのですが、 では字画が多くて書くのが面倒なため、発音が同じで、誰でも知っている農で代用することになったのです。
韓国の魚名にはオで終わるものが多く含まれています。たとえばヒラメはクァンオ、ウナギはチャンオ、フナはプンオです。
 これと別にチで終わる魚名も目につきます。たとえばマグロがチャムチ、イワシがメルチ、サンマがコンチでタコがナクチです。いったいどう使い分けているのでしょうか。じつは、ウロコのある魚はオで終わり、ウロコのない魚はチで終わるのがルールだそうです。

スズキ4兄弟 - スズキは3種類+1交雑種

 日本近海には高塩分域を好むヒラスズキ、広塩性のマルスズキ、淡水域を好むタイリクスズキの棲み分け3兄弟、およびマルスズキとタイリクスズキの中間型が分布しています。
 
【 @ マルスズキ - Lateolabrax japonicus 】

 棲息域の広さからも個体数の多さからも日本でもっとも一般的なスズキであり、本冊子でスズキと書いているときはこのマルスズキのことを差しています。
 適応水温が幅広く、河川から湾奥部、磯からサーフまで幅広く分布しています。北は青森県竜飛崎でルアーフィッシングが可能。数は少ないものの北海道南部の噴火湾、石狩湾周辺まで分布しています。南は鹿児島県南部の屋久島、種子島周辺までが棲息範囲です。久米島が一応の南限とされますが、単発的にはさらに南の島でも捕れることがあるようです。
 マルスズキは潮の通す外海にはあまり多くいません。内湾を好み、Phの変化や沿海の汚染された海水につよいのが特徴で、棲息環境によっては匂って食べられないことがあります。
 幅広い塩分濃度に適応できるため、汽水域からときには川の上流の完全な淡水域でも見られます。25cm位の1年魚がセイゴ、40cm位の2年魚がフッコ、60cm以上になってスズキと呼ばれますが、市場ではズバリ1kgを超えるとスズキになります。



【 A ヒラスズキ - Lateolabrax latus Katayama 】

 ヒラスズキは200万年以上も前にマルスズキと共通の先祖から枝分かれして、高塩分域に棲めるよう進化してきました。魚類学的に別種であることが確認されたのは1957年です。ヒラスズキはマルスズキよりも暖海性で、太平洋側は宮城県牡鹿半島から南、日本海側は北陸以南から沖縄県久米島周辺まで分布しています。
 小さいうちはまだ低塩分への適応力が残っていて、外洋に面した河口付近で普通に見られます。フッコクラスが時折、河川の下流域で釣れることがありますが、これは淡水の下に入り込んだ海水 ( 塩水クサビ ) を利用しているようで、純淡水域まで遡上することは滅多にないと思われます。成魚になると塩分濃度が高く、河川の影響が少ない砕波帯をおもな棲息域にします。
 英語名でブラックフィンシーバス ( Blackfin sea-bass ) と呼ばれるように、各ヒレが黒っぽいのが特徴です。若魚の体色はシルバーですが、大きくなると背中から黒くなり7〜8kgになると腹部まで黒く変化して夜間行動のステルス性が高くなります。
 眼の大きさは夜行性のつよさを表しており、薄暮時〜夜間の ケミホタル には確実に反応します。夜中も動いているので3時〜5時の暗い時間帯も油断できません。
 マルスズキよりも尾ビレの付け根が太いので遊泳力があり、海が時化 ( しけ ) てサラシが広がったときに活性が高くなります。扁平な体は水平方向の回転性能が高く、岩や海藻など磯の障害物の中を擦り抜けるのに適しています。
 生活はほとんど根魚と同じで、昼間はめったに動かず、身を隠せるような根に貼り付いています。幼魚の頃から魚食性がつよいためか、動体視力が優れており、波と同調せずに動く物体が目の前を通ると、大きな口で吸い込むように捕食します。
 夜は好みの条件の場所を索餌回遊するのですが、マルスズキの泳層が海面から1mのところ、ヒラスズキは逆に海底から1mなので、海底にオモリを沈めて固定した刺し網にかかることがあります。このときパワフルな大型だと、鋭いエラで網に穴を開けて逃げてしまうケースが殆どで、漁獲できるのは体力不足の中・小型だけに限られます。
 養殖技術はまだ確立されていません。資源の絶対量が少ない上に、網でも偶発的にしか捕れないため、流通する数は不足しています。身肉が引き締まっていて、刺身やムニエルなど、どのような調理方法でも美味しく食べられることから、市場価格はマルスズキの2〜3倍と高価です。


【 B タイリクスズキ - Lateolabrax maculatus 】

 学名の maculatus は spotted ( 斑点 ) という意味です。マルスズキの成魚に斑点があることはまれで、もしあったとしても背中側に限られますが、タイリクスズキの多くには腹側まで黒点があります。斑点が目立つ魚なので中国や台湾では ( セブンスター ) ( または ) と呼ばれます。日本でもホシズズキと呼ぶことがありますが、斑点がまったくない個体もいます。
 英語名は Chinese sea-bass です。その名の通り、中国沿岸から台湾、朝鮮半島西岸にかけて分布し、もともと日本沿岸には棲んでいませんでした。ところが冬の低水温時や、昼間の明るい時間帯でも摂餌活性が高く、成長速度がマルスズキの1.5倍ほど早いために、1989年頃から国内で養殖されるようになりました。最大寸法はマルスズキよりもはるかに大きく、食味もマルスズキと同等以上です。
 養殖は現在でも行われていて、西日本を中心に釣れるタイリクスズキは、輸入された養殖魚が台風などで逃げ出して野生化したのではないかと考えられます。国内で繁殖しているかどうかはまだ確認されていませんが、養殖実績がない場所にも分布しているし、人為的に雑種を作ることも簡単だそうです。実際に、有明海と八代海には一万年以上前に交雑したとされる雑種が繁殖しています。
 タイリクスズキはマルスズキと生育環境が近くてエサを競合する上、在来種との交雑が懸念されるため、ニジマスやタイワンドジョウなどとともに 「 要注意外来生物 」 のひとつに指定されています。
 輸入された当時はマルスズキと同一種だと考えられていました。形態の差異や遺伝的距離の大きさを調べた結果、独立した種だと確認されたのは1995年になってからです。外観がよく似ているとはいえ、斑点がウロコよりも大きいこと、マルスズキよりも体高があって、眼が大きいことのほか、吻がやや短いことなどで見分けることが可能です。正確には、側線上の鱗の数がマルスズキの82枚前後に対して、タイリクスズキは72枚前後と少ないこと。脊椎骨も36個に対して35個と少ないこと。鰓耙の数もマルスズキの26〜28枚に比べて、20〜22枚と少ないことで同定できます。
 タイリクスズキは約90万年前にマルスズキと共通の先祖から分化して、中国の広大な河川域を利用できるように進化してきました。台湾では養殖池で産卵させるほど淡水に順応しています。日本でも海から10km以上あるような河川の上流で釣れるスズキはほとんどがタイリクスズキです。



【 C 有明海産スズキ 】

 有明海は湾口が狭隘で外海との環流が少なく、平均水深は20mほどしかありません。誕生したのは約1万年前です。海になる前は、渤海−黄海−東シナ海までが一体となった広大な干潟の一部だったことから、中国側に棲息していたムツゴロウやアゲマキなどが有明海に分布するようになりました。これらの生物を大陸遺存種と呼びます。
 タイリクスズキなは黒点があっても、マルスズキの成魚に黒点はないはずです。ところが有明海や八代海産スズキの約60%が黒点を持っています。稚魚のときの姿もマルスズキとは異なっていることから研究が始められた結果、1997年になって、マルスズキとタイリクスズキの交雑個体群であることが確認されました。
 有明海は湾全体を筑後川や菊池川の河口域と見なすことができます。濁度が高く、干潮時にドロ干潟ができるなど、本来の棲息域である中国の河口と環境が似ているため、干潟時代に棲息していたタイリクスズキのDNAが残りやすかったのかも知れません。
 有明海と陸地約10kmを隔てて隣接する大村湾ができたのは9千年前です。この大村湾にはマルスズキだけしか棲息していません。平均水深が15mと浅いので、有明海が誕生した1万年前には干上がっていて、交雑種が入り込むことはできませんでした。このことから、タイリクスズキとマルスズキの遺伝的交流があったのは1万年よりも前だろうと推測されます。
 

《 参考図書 》 恒星社厚生閣刊 スズキと生物多様性
 


[ COLUMNS ] 洗いといえばコイ、チヌ、ボラ …

スズキは氷水に晒して脂肪分を落とした 「 洗い 」 で食べるのが一般的です。でもこれは暑い夏に清涼感を演出するのが目的ではありません。
夏場、水温の高い河口でエサを拾う魚には匂いが出ることがあります。河川が海に入る辺りでは水の流れが緩くなり、川底は有機物を多く含んだ砂泥地が多くなります。ここに棲むエサ生物は、高温からもたらされる酸素不足で分解が進み、匂いを放つような微生物を食べています。このため、汽水域に棲む雑食性魚であるチヌやボラ、スズキの身肉は匂いが出やすいのです。沖合いで捕れた銀色っぽいスズキなら洗いにしなくても大丈夫ですが、もしものため、匂い成分を含んだ体液を抜き、氷で身を引き締めて舌触りをよくするのが江戸前伝統の 「 洗い 」 です。
 
産卵を済ませて痩せたスズキも、春になればまた豊富な餌を食べて体力を回復します。梅雨が来て、増水で流される鮎を食べた河口のスズキは食味も良くなり、夏には丸々と太ってくるため、スズキの旬は夏だとされます。ところが夏の高温期には、とくに栄養不足の個体で身肉がスカスカに柔らかく、乳白色に変化する 「 シラタ 」 と呼ばれる現象が発生しがちで、3枚におろすときに、背中が包丁を入れたように割れることがあります。
 
暑い夏をやり過ごしたスズキも秋から冬にかけて身が充実してきます。産卵直前には真子が入って脂肪分もたっぷりなのに、夏が旬だとされているお陰で値段もお手頃です。ところが食味は栄養状態に左右されるので、冬場であっても餌が乏しい場所にいるスズキは、エネルギーの多くを産卵に取られてしまい、脂肪分が不足していることがあります。
マルスズキは身肉が柔らかいので、もともと加工に向いた食材であり、刺身で食べるのも釣ってから1日が限度です。洗いにするのは歯ごたえを出すのが目的でもあります。
ヒラスズキは身肉がしっかりしていて脂がのっています。清浄な沖合を好むうえ、やたら体力があって産卵後の回復も非常に早いため、どの時期でも美味しく食べることができます。

産卵と成長

【 産卵 】

 スズキは体長約40cmになると産卵を始めます。まだ若い母体ではおよそ15万粒、大きく成長すれば20万粒以上の卵を産みますが、一度に産んでしまうのではなく、ひとつの産卵期間中に何度かに分けて産卵するようです。産卵の好適温度は12〜18℃で、平均水温15℃がピークだとされます。スズキは活魚の輸送もこの温度で行われます。
 産卵時期は晩秋から翌年の春にかけての厳冬期ですが、適温が得られやすい西日本では11月〜3月と時期が長く、北陸や東北など寒い地域ではおよそ12月〜2月までと短くなります。産卵は沖合の表層近くで、潮が大きくて海が荒れた日の、夕方から夜にかけて行われるそうです。これは浮遊性の卵が捕食されないよう、すばやく散乱させるためだと考えられます。
 卵は直径1.2mm〜1.5mmの球形で、浮力体として油球が1個から複数個あります。海産魚のほとんどは油球のある分離浮性卵を産むため、外観からスズキの卵を特定することはできません。魚卵の多くはこれといった特徴を持たず、育ってみるまで何の卵だか判らないのが実情です。
 
【 成長 】

 生まれた卵は潮流に乗って広く分散し、4〜5日後には孵化します。仔魚は漂いながらプランクトンを食べ、体長1.5〜2cmまで成長すると岸寄りの藻場や河川に入り込みます。稚魚の成長は速くて1年後の冬には20〜25cmのセイゴになります。
 体長20cmを超えると岸近くの育成場から河口域や深場へと移動します。成長の速さは地域によって異なりますが、20cmを境に成長速度が緩やかになり、2年後に30〜35cm、およそ3年で体長40cmのフッコになります。7年で55〜65cm、80cmに育つには10年が必要だとされます。
 
【 食性 】

 稚魚のおもな餌生物はイサザアミですが、体長10cm位から魚食性がつよくなり、ハゼやシラウオの稚魚を食べるようになります。基本的に雑食性なので、湖沼にいるときはヤゴなどの水棲昆虫やワカサギ。川だとアユやウグイ、河川ではイソメに二枚貝、ボラの子、磯ではカニやエビ。沖ではキビナゴやイワシ、アジなど多様なエサを補食します。
 河口で上流から流れてくる小魚を補食するとき、胃の中の魚は頭から呑み込んでいます。大抵の魚は、尾から呑み込むとノドに支えてしまいます。どちらからでも呑み込めるのは大型フィッシュイーターだけの特技といえるでしょう。
 
【 資源 】

 全国の漁獲高は1978年に11,570トンを記録したあと減少に転じ、1987年頃に最低値の5,436トンになりました。その後は各地の内湾を中心に増加し、2001年以降は1万トンを超えるようになっています。マダイやタチウオの漁獲が例年1.5万トンほどなので、魚屋さんの店頭でスズキをあまり見かけないのが不思議に思えます。漁獲量が一番多いのは千葉県で、1977年には全国のほぼ1/4に相当する2,750トンの水揚げがありました。その90%が東京湾によるものです。
 東京湾の遊漁船732隻を対象にした調査では、1992年には年間約49,500人が乗船し、83,518匹 ( 約103トン ) のスズキが釣り上げられていました。つまり、一人一回1.68匹 ( 約2kg ) が平均的な釣果ということになります。
 

四腮魚の四季

頻繁に居場所を変えるスズキですが、移動パターンはある程度決まっていて、夏は高水温を避けつつベイトの居場所を追いかける策餌回遊、冬は越冬と産卵のために湾岸へ出るのが基本になります。湾内と湾外との往復を繰り返す生活なので、季節に応じたフィールドを選べば、ほぼ年間を通じて釣ることができます。
【 3 : 稚鮎パターン 】

 関東地方では3月後半から、暖かい地域だと2月後半くらいから、鮎の遡上が始まります。稚鮎の好適水温は10〜20℃なので、川の水温10℃以上、または海水温20℃以上を遡上開始の目安にしてください。スズキは寒い時期には海にいますが、遡上開始を機会に川に入って、流れの穏やかな場所を上っていく鮎を、やや深みの駈け上がりから狙っています。もし河口近くに堰堤がある場合、スズキがこの堰堤を越える可能性は高くありません。堰堤下に鮎が溜まっている時期がチャンスになります。
 稚鮎は郊外の澄んだ川だけでなく、都市部の護岸された川にも遡上します。遡上前の時期であれば、河口でシラスパターンを試してください。鮎がいない地域ではイワシやサヨリなどの海水魚パターンが有効になります。


 
【 4 : イワシパターン 】

 春の始めはまだ水温が低く、産卵後のスズキの体力も回復しきっていません。4月を迎えて海水温の上昇とともにベイトの動きが活発になると、スズキの群れは港湾や運河筋まで入り込んできます。この時期はルアーの色に対する反応差も少なく、食欲旺盛なスズキを数釣りできるチャンスです。
 ベイトはイワシのことが多いので、種類が不明のときはとりあえずミノー ( ハヤ型の小魚を模したルアー ) を使ってイワシの動きを演出してください。ベイトの種類は地域によって違い、たとえば大阪湾だと常夜灯に集まるボラがメインだったり、イカが寄りつく地域ではイカがメインだったりします。港湾ではサビキ釣れるカタクチイワシや小アジを使ってみるのも手です。
 
【 5 : バチ抜けパターン 】

 干満差が大きい夜間、満潮から干潮にかけて、砂泥に潜んでいたバチがいっせいに海面に浮き上がって産卵するのがバチ抜けです。バチとは本来イトメのことですが、ヤマトカワゴカイやウチワゴカイなど、繁殖期に泳ぐ多毛類を総称してバチと呼びます。地域によって種類が違ったり、時期が一定でなかったり、昼間だったり、またはバチ抜けそのものがないこともあります。
 バチは遊泳力が乏しくて楽に補食できるため、このシーズンはバチにしか反応しないスズキが多くなります。運河や河口、干潟のドロ底エリアをよく観察して、外灯があたる海面で泳ぐバチを捜してください。バチをイミテートしたソフトルアーやハードルアー、またはフライで攻略します。スズキはバチの引き波に反応します。風があると水面の引き波が見えないので凪の夜が狙い目です。ティップが柔らかいロッドを使い、ラインもフックもできるだけ細くしてください。


 
【 6 : ボラパターン 】

 6〜7月にはバチ抜けも終わって、砂泥地では、周年いるカニやシャコなどの甲殻類が餌になります。しかし水温が上昇してプランクトンが増え、海中の酸素が消費されがちな時期に、湾内の浅場では条件が厳しすぎます。潮通しのいい湾口や沖の一文字、新しい水が供給される河口域などに狙いを絞ってください。ボラがいるならボラパターンで表層を、ハゼがいるならハゼパターンで海底を探ります。
 日中はつよい日差しを避けて物陰に隠れていますが、水が濁っていれば陰から出てきてベイトを追うことがあります。深場の駆け上がりや、埠頭や桟橋の陰、橋の下などストラクチャーがある場所を攻めるのがセオリーです。
【 7 : 川のデイゲーム 】

 この時期は水温が低くて酸素の多い場所へ移動するため、いつもの場所では釣れなくなります。それで一昔前まで夏はオフシーズンとされていました。しかし、スズキとベイトの両方が過ごしやすい河川の中流域を見逃してはいけません。とくに梅雨や台風の後は、大雨で流された小魚を食べて活性が高くなっています。
 水が濁っているので昼間から釣れますが、濁りの中でルアーを見つけて貰うためには、赤金などアピールのつよいルアーを、目の前50cmに通す必要があります。ベイトを捜して活発に動きまわるスズキの居場所を読み、ピンポイントで攻める難しさはあるものの、普通ならルアーを見切って反応しない大物を、リアクションバイトで仕留めることができます。
 
【 8 : ジギング 】

 暑い夏を潮通しのいい沖の避暑地で過ごす群れがいます。沖と言っても、浅場を好むマルスズキは80mよりも深く潜ることはありません。これらを大潮の夜に メタルジグ + ピタホタル mini で攻めることができます。アジがベイトのときには頭から落ちていくルアーを選んでください。イワシやキビナゴは水平のまま沈降するので、それに合わせて水平フォールするルアーを使います。
 スズキがベイトについて浮いているときはソフトルアーでキャスティングすることもできます。ベイトの群れを襲うときは、ナブラの中心には小物が、端っこには大物がいるので、周辺部の大型スズキを狙って、目立つように大きなアクションで誘ってください。
 
【 9 : シーズン再開 】

 秋になって水温が下がると、夏は寄りつかなかった浅場にもベイトが戻ってきます。しかしまだ気候は安定しておらず、酸素の乏しい青潮やニガ潮が発生しがちです。遊泳力のある小魚はこのようなエリアから姿を消してしまうため、スズキの居場所も確定したものではありません。急激な水温低下の影響で活性が落ち込みやすいのもこの時期の特徴です。
 秋も後期を迎えると、冬の産卵期に向けての荒食いが始まります。春に次ぐ好シーズンなのですが、条件次第で釣果が左右されるのは同じこと。慎重にポイントを選ばないとヒットは望めません。
 
【 10 : 落ち鮎パターン 】

 コノシロと落ち鮎がメインベイトです。潮位差が大きいときは回遊性のコノシロを追って潮通しのよい場所まで出ますが、潮が小さいときはスズキの移動も少なくなり、湾奥の流れ込みのある場所にいることが多くなります。干満差が小さい日本海では岩盤底で複雑な地形の場所に居着くようです。
 鮎は川魚を食べる魚にとって一番の餌です。鮎は清流の開けた砂利底で産卵したあと体力を使い果たして下流まで流れてきます。上流域まで遡上していたスズキも、雨後の増水を機会に、鮎を追って下がってくるので、まずこの落ち鮎の時期を調べてください。
 ルアーを遠くまで流すため、リールには充分な量のラインを巻いておきます。バイトに即応できるよう、ラインスラックを最小限にとどめ、流れに身を任せて落ちていく鮎の動きを演出してください。
 
【 12 : 居残り狙い 】

 冬になって気温が下がると、水深のない場所での陸っぱりは厳しくなります。湾内だと原発排水口付近に居着いている居残り狙いになりますが、沖合の深みには水温の安定した場所があります。スズキはストラクチャーがある場所に立ち寄りながら、段階的に深場へと移動していくので、変化がある場所に狙いを絞って釣っていきます。完全に越冬体勢に入ったあとは、海底に貼り付くように定位しているスズキを、ボートからメタルジグで攻略します。活性は高くないので、ジグを落として底取りをしたら、3mくらい巻き上げて、また落とすという動作で根気よく誘ってください。




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