01 グレの分類

グレコトハジメ

 魚類はいくつかの種類の自然のリズム(*註1)にしたがって生活しており、もっぱら昼間だけあるいは夜間だけ行動する種類のほか、昼行性/夜行性の区別があまり明確でない種類もいます。
 グレは基本的には昼行性の魚であり、夜は岩の窪みなどで眠って過ごすのが普通ですが、成長するにしたがって一部は夜間も索餌するようになり、外灯のある港湾では灯りに寄ってきたゴカイを捕食していることがあります。
 オナガもマズメ前後から夜間の暗い時間帯を中心に喰ってきますが、昼間も釣れないことはないため、昼行性/夜行性をはっきりと区分することは出来ません。
 どちらの魚種も24時間いつでも摂食する食性を備えており、潮の速さなどの条件が調えば夜間も活発にエサを追います。

 黒い体(*註2)は暗い場所での保護色であり、両者はもともと暗がりを好む性質を持っています。そのため若魚の間は昼行性がつよくても、大きくなるにつれて昼間はエサを追わず岩陰に潜んだままになり、だんだんと夜間の移動や摂食活動が増えてきます。  夜間であれば、いくら眼がよくて物の形状を見分ける能力が高いグレといえども、ハリスを見破ることが難しくなります。昼間だったら2号を軽くブチ切っているはずの大物にも余裕の太仕掛けで対応可能。海の中は地上よりも視界が効かないため、障害物の多い磯を全速力で奔りまわって抵抗することも出来ません。だから夜は大物が釣れるのです。

喰いがたてば何10kgもの大釣りになるのがグレ釣り。グレの群れはイワシの群れほど厳格に統制されておらず、たえず分裂と合流、離散と集合を繰り返しています。群れをつくる魚には、仲間との間隔を視覚に頼らなくても自動調整できるように、人間には到底聞こえないレベルのごく僅かな水の振動を感知する能力が備わっています。磯の岩盤や海水には低周波音を伝えやすい性質があり、グレには低周波音を聞き取る優れた能力があるため、瀬際で不用意な物音を立てると警戒されることになります。

【 註1 】太陽光の日周リズムや季節変動、月明かりの半月周期、年間の水温変動、それにともなう食物の変化など。

【 註2 】皮膚にはメラノフォアと呼ばれる黒い色素胞が存在する。眼からの神経は全身の色素胞に繋がっており、砂地のような明るい場所では縮まって体色が白っぽくなるが、岩棚など暗い場所に潜むときには広がって黒くなる。全体的に夜間は黒っぽく、昼間は薄くなる傾向があり、釣り上げたときには海に溶け込むエメラルド色でも、死ねば色素胞が弛緩して黒く変色する。
浅場の岩陰に身を隠すときや敵に追われたときにはマダラ模様の迷彩パターンが現れる。よく観察すると背から腹へと走るヨコ線が見えるが、これは海藻が生えた場所に棲む磯魚の特徴である。

グレ(メジナ)の種類と名前の由来

ベラじゃないよね

 グレは清浄な沖磯のみならず沿岸の汚れた海水にも耐性のある魚で、沖縄( 数は少ない )から北海道南部まで日本各地の岩礁帯に広く生息しています。食味は良いものの季節による味の変動巾が大きく、また一部の地域を除いて漁の対象となるほど多獲性ではないため、食用魚としては全国区ではありません。
 学名 Girella Punclata の Girella はフランス語でベラを表す Girelle に由来しています。この Girelle の意味は何かと調べてみたら、やはりベラ属をあらわすラテンの古語 Julis から来ていました。現在ではメジナ科なのですが、どうも当初はベラ科の魚だと思われていたようです。後半の Punclata はウロコの付け根にある丸い点を差しているので、学名としては「 斑点のあるベラ 」いう不名誉なことになってしまいます。

外国にもいるのか

 グレは日本近海のほかアメリカ西岸や北大西洋にも生息しています。英名を Large scale - Blackfish( 大きなウロコの黒い魚 )、Rock Black fish( 岩礁の黒い魚 )、または Nibbler( 囓り屋 )といい、岩についたアオサやムール貝、小さなカニや冷凍エンドウ豆などのエサを使った釣りの対象魚となっています。
 グレの仲間は約20種であまり多い方ではありません。世界中の温帯から熱帯にかけての浅海域に Blue Eye Perch( 青い眼のパーチ )、Green Perch( 緑のパーチ )、Blue Fish( 青い魚 )、Black Drummer( 黒い太鼓腹 )などと呼ばれる近似種がいます。どれも眼の色や体色に着目した命名です。

中国ではスイカの種

 グレはウロコが大きくて斑点が目立つことから中国では一般的に ( バンジー )または ( ヘイジー )と呼ばれます。 は学名の Girella を音訳した魚名漢字で、同音の漢字を使って紀魚( ジーユィ )とも書かれます。そのほか ( グワァズラ )という名称もあります。 はフナ型の魚、瓜子はスイカの種のことなので、これもウロコの斑点が由来のようです。
 ウロコの基部にある大きな斑点が特徴であることから、標準和名のメジナは目地魚( めじな )に由来するのかも知れません。
 または、特徴的な眼の色から眼紫魚が語源とも考えられます。米国西海岸では一般的に Opal-eye( オパール色の眼 )と呼ばれています。

生息深度で体色変化

 グレには変色能力があり、気分次第で体色が変わります。同一種内でありながら個体差が大きいため、一部の地域ではオナガ( 標準和名クロメジナ )はグレ( メジナ )と同種だと思われていました。そのため60年以上も前からオナガとグレを区別していた地域と、ここ20年ほどで区別するようになった地域があります。

● 標準和名 / メジナ
[ Girella Punclata ]
● 地方名
グレ、クロ、クチブト、地グロ、クロダイ、タカイオ、クロイオ、クシロ、アオイオ、エース、ヒシ、 シシビ、ブレ、ヒコヤ、ツカヤ、クロメダイ、クロヤ、クロテン など

● 標準和名 / クロメジナ
[ Girella leonine ]
● 地方名
オナガ、オナガグレ、オナガグロ、オキメジナ、チャグレ、オキタカ、ワカナ、マグレメジナ、クルシチュー など

● 標準和名 / オキナメジナ
[ Girella mezina ]
● 地方名
ウシグレ、セグロ、ブタメジナ、シシガシラ、オキクロワイ、スカエース、スバチ、シチュー など

夜のオナガは釣りやすい

 オナガはグレよりも暖海性がつよく、潮通しのいい外洋を好んで塩分変化を嫌います。全体的にスマートな体型をしていて80㎝を超えるほど大きく成長します。
 名前の通り尾ビレが長くて切れ込みがあるのが特徴ですが、エラの縁が黒いこと、ウロコが小さく滑らかで基部に暗点がないことでも見分けが可能です。
 小型のうちは青味がかっていますが大きくなると60mもの海底まで索餌回遊するため、体色が赤味を帯びて「 茶グロ 」と呼ばれるようになります。
 3種の中では一番食味が良いものの、釣るのが最も難しいのもオナガです。早アワセが必要なうえ、鈎を飲み込まれれば、硬い歯でハリスを切られます。工夫を重ねて、やっとジゴクに鈎がかりさせたとしても、今度は猛烈なパワーで最後まで抵抗するので油断できません。しかし夜釣りなら余裕のタックルで対応可能。オナガがその怪力を発揮できないのは、①水温の低い厳冬期および産卵後の体力回復期。②水深がある場所で、海底の地形を利用して奔り廻ることが出来ないとき。③暗くて視界を確保できないため、最高速を出せないときです。警戒心がつよくなった大型はとくに夜間ヒットします。ぜひ ケミホタル で記録更新を狙ってください。

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オキナメジナはナゼ「 翁 」?

 オキナメジナはオナガよりもさらに暖海性で、個体数の少ない魚です。千葉県以南の列島両岸に分布しており、稚魚は沿海の浅場で見ることができます。若魚のうちは胴体の背から腹にかけて黄色い横帯が入るため見分けは難しくありません。
 体長約50㎝まで成長。グレやオナガよりもボッテリとした体型で、上唇が厚く尖っています。藻食性のため、口はやや下向きについており、鮎のように縄張り意識がつよく、群れを作らずに単独生活を好みます。そのため釣れても単発であとが続きません。引きは鈍重で食味は大味だとされます。

 日本の魚類分類学の創始者である田中茂穂博士により翁眼仁奈と命名されたものの、なぜ翁( オキナ )なのかは不明のままです。
・ 推理1 : 潮通しのよい沖磯を好むので「 沖のメジナ 」がオキナメジナへと変化した。
・ 推理2 : 沖縄で釣れるのはほとんどが本種である。そこで オキナワメジナ → オキナメジナ へと転じた。
・ 推理3 : ほかの2種に比べてデブっと太っているので、もしかすると「 大っきなメジナ 」が由来かも?

潮止まりにナゾの大物

 グレは潮の動く時間帯の釣りと言われますが、釣れるのは小型から中型までが中心であって、意外なことに大物は潮止りに集中して釣れています。しかし釣師の多くはそのような印象を持っていません。それはヒットしても大型すぎてラインをあっさり切られてしまったり、もし取り込むことができたとしても非常に数が少ないからです。
 これはグレに限らないことですが、潮の動く時間帯は何かしら釣れるので、釣師は竿を持って一所懸命に釣っています。潮が止まって喰いが止まれば置き竿にして休憩し、弁当でも広げることでしょう。
 そんなときに大型魚はゆっくりと動きだします。釣人が手を休めているときにエサを喰うため、とっさの対応が間に合わず、気がついたときには根に入られたり、ラインを切られたり、竿を持っていかれたりといった結果を招きます。
 魚が、潮流に流されずに定位置をキープするためには、潮の流れに逆らって泳ぐだけのエネルギーが必要になります。
 大型魚は体を維持するための基礎燃費が高く、活発に動きまわることは多くありません。効率よく食べるためには、流れのある間は体力を温存し、潮が止まってからの活動が合理的です。
 大物のポイントは水深にはあまり関係ありません。グレが釣れる潮通しのよい場所で、潮が止まる時間帯を選んでください。小型・中型グレのアタリは明確に出るので、潮が流れていてもアワセを入れることができます。
 これに対して、大型のアタリは居食いに近い感じで小さく、潮の流れがあれば見過ごしてしまいがちです。釣れる時間は限られますが、もし魚拓級の巨グレに挑戦するなら、ウキの微妙な動きを見極めるためにも、潮の緩い時間帯を狙ってみてください。