06 特別授業

鼻で味が分かるのか

 人類が誕生する以前から魚類には嗅覚器官と味覚器官が存在していて、水の中の匂いと味を感じ分けていました。水から離れて地上生活を始めたときに動物は、水中の匂いの代わりに空気中の匂いを感じ取るように進化したのです。
 地上に棲む動物にとって匂いとは、空気の中に含まれる成分を鼻腔内の嗅覚細胞を通じて感知することであり、味とは唾液などの液体に溶け込んだ成分を舌の上の味蕾で感じることです。しかし魚類にとってはどちらも水の中の情報を分析する作業にほかなりません。
 鼻の中には板を重ねたような形の嗅房があり、トンネル状の鼻腔内を通過していく海水の成分を感じ取ります。鼻の穴は体の左右両側にあるので、匂いの濃度差によって餌のある方向を知ることができます。

グレの味蕾は唇と鰓に

 グレを含む魚類の多くでは、舌と口の中以外に、唇や鰓ブタにも味蕾が分布しています。味蕾は蛋白質が分解してできたアミノ酸につよく反応するため、グレはエサを口の中に入れるまでもなく、ただ鰓や唇に触れるだけで、食べられるかどうかを判断することができます。
 従来は魚にとって匂いと味の区別はないという考え方が支配的でした。しかし現実には、嗅覚器官と味蕾の構造は大きく異なっており、嗅覚器官からの神経が脳の嗅覚中枢へつながっているのに対し、味蕾の神経は延髄へとつながっています。しかも同じ味蕾でも、口内の味蕾が延髄の中の迷走葉につながっているのに対して、唇の味蕾は顔面葉と呼ばれる場所につながっています。つまり味蕾ひとつでもそれが体内にあるか体外にあるかによって、脳はそれぞれ専門の部位で解析し、グレに別々の感覚として感じるように処理している訳です。

匂いと味と食感に

 魚類の味覚と嗅覚の違いは想像するしかありませんが、餌生物の、水に溶出しやすい成分が海中に漂っているのを感じとるのが嗅覚。味蕾を直接餌に接触させて、細胞膜の中に保護されていた成分を感じるのが味覚ということになりそうです。
 生エサやソフトルアーだとベイトは口の中深くまで入ってフッキングしますが、ハードルアーだと一瞬くわえただけで、はじかれることが多くなります。魚類の口は触感にも敏感です。魚を釣るためには、視覚や聴覚というセンサーをくぐり抜けた上で、さらに 匂い ⇒ 味 ⇒ 触感 の3段階のチェックポイントを突破しなければなりません。

グレもオナガも歯の先は3つに分かれているが、オナガの歯の方が鋭くて硬いためにハリスを切られやすい。どちらも歯先がすり減れば次々と新しい歯が生えてくる。

[ 監修 / 写真提供 ]
鹿児島大学水産学部 川村軍蔵教授

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