06 マダイ釣り実践編 その4

漁師が生み出した「 巻き落とし 」
解説:中田清治

 錦江湾の漁師の間では古くから使われていた釣り方である。下の図のようにコブシ大の丸くて長い石( 瓦を割ったものでOK )の上に、コマセとなるイワシミンチを載せ、その上にツケエサを置いてハリスでグルグル巻きにする。これをタナまで落としたところで道糸を止めると石はクルクルと回って海底に落ち、コマセとツケ餌だけが海中を漂うことになる。
 タナは、事前にオモリを沈めて水深を測ってから決めればよい。狙ったタナで効率よくコマセとツケ餌の完全フカセ状態を作れるというものだ。
 この釣法の最大の特徴は、水深が深くても、魚がもっとも自然に餌を喰うフカセ状態を作れるということ。この釣り方でマダイやイシダイのほか、カンパチやブリなどの青物までをターゲットにできる。
 ここで最新の沖釣り「 コマセマダイ 」について考えてみよう。コマセマダイは現代のマダイ釣りの代表格であるが、コマセとツケ餌を同調させて狙うという点ではほかの吹き流しと何ら変わりはない。大きな違いはハリスが長いということだ。10mからときには15mもの長いハリスを使う。なぜだろうか。その理由はまさにコマセカゴの存在にある。
 コマセカゴからはマダイの好物がパラパラと出てくるのだが、コマセカゴを嫌うマダイはある距離から近づこうとしない。そのためハリスを長くすることでマダイがいるゾーンまでツケ餌を送り込むという考え方なのだ。
 またハリスが長いとツケ餌が自然に潮に馴染み、マダイに警戒心を与えないのも理由のひとつである。巻き落としが釣れる理由がここにある。
 長丸い小石を用意する面倒はあるが、魚が嫌がるコマセカゴがないうえに、完全なフカセ状態を演出できるのだ。コマセとツケ餌も近いので完全に同調する。「 巻き落とし 」は魚の習性を知り尽くした漁師が生み出した、漁師ならではの釣法なのである。


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釣り人が考えた「 チョロ釣り 」
解説:中田清治

 マダイは大きくなればなるほど宙層を泳ぐと言われている。これはその食性に大きく影響されている。小さいころのマダイは海底付近のカニやエビ、ゴカイなどを食べて育つので、海底付近が住処になる。一方、成長した大ダイはフィッシュイーターになって、宙層にいる小魚を食べようと海底から離れることが多くなる。
 そうなるとマダイを釣るにはどのレンジを狙えばいいのだろうか。一概にはいえないが、中小も含めて魚影の濃い海底付近を狙うのが一般的だろう。ただし釣人の心理としては宙層にいる大型を放ってはおけない。
 そんな釣人が生み出したのが「 チョロ釣り 」である。
 仕掛けはいたってシンプルで、3m程の吹き流し仕掛けを潮に任せて流し込んでいく。ウキを使わないから磯でいう完全フカセ釣りの状態である。船上から沖アミを手で撒き入れ、その撒き餌とツケ餌が同調するように道糸を送り込めば、海面から海底までの全層を探れるというわけだ。流れが速いときはサルカンとスナップで重さを調節すればいい。
 巻き落としと同じく、この釣法には魚が嫌うコマセカゴもなく、仕掛けは実に自然体である。ラインは最大で200mも出るので手返しはよくないが、宙層の大ダイを始めイサキや青物、根モノまでと幅広いターゲットを釣ることが可能だ。
 漁師が生み出した「 巻き落とし 」と釣人が考えた「 チョロ釣り 」。よく釣れる両者の仕掛けにはシンプルイズベストという共通点がある。

辛抱の鯛ラバー

 鯛ラバーとは伝統漁具である鯛カブラと、ルアーのラバージグが合体したもので、活エビの代わりにゴム製のバイブレーションテール( ネクタイ )で誘って釣る。ヘッドが起こす細かな水流によってラバーが生物のように動くため、ただゆっくりと巻き上げるだけで喰ってくるのだ。
 タックルはマダイ専用はもちろん、カワハギ用でも代用が効く。ミチイトはPE0.8号程度で、リーダーとしてフロロの4~6号を5mほど結びつける。鯛ラバーには比重があるため、ボトムを取るのはそう難しくない。仕掛けをまっすぐ海底まで降ろしたら、あとは一定速度で巻き上げるだけだ。
 誘う範囲は底から5mの人もいれば、海面までの人もいるが、大型マダイの泳層と打ち返しの効率を考えれば、水深の半分位まで巻き上げるのが妥当だろう。ブリやヒラマサなどの青物から、カサゴやハタなどの根魚までヒットしてくるが、マダイの場合はアタリがあってもそのままのペースで巻き上げ、魚の体重が乗ってからアワセを入れるのがコツである。
 鯛ラバーもあまり明るい時間帯や澄み潮での釣果はよくない。基本はやはりマズメ時の釣りである。広くて暗い海中で魚からエサを見つけて貰うためには「 ちもとホタル 」の使用をお薦めしたい。海の発光生物のように小さい光なので決して警戒されることはない。
 鯛ラバーは船釣り専用と思われがちだが、比重があるだけに投げ竿で遠投すれば60mくらいは飛ぶ。水深のある場所なら、堤防からブン投げてナナメ引きすれば面白いだろう。道具がシンプルなだけにトラブルは少ない。

鹿児島・海晴丸 中田清治

● ケミホタルフィールドスタッフ
ゴーセンテスター、オーナー鈎テスター、東邦産業テスター、プロックスプロトテスター
[ TEL : 080-5202-7733 ]

ブラーで狙う北限のマダイ
解説:西田豊忠

 対馬海流に乗って日本海を北上するマダイ。釣人がゲームできる日本最北端の釣場は青森県むつ湾と云っても良いだろう。海流( 暖流 )は北海道の西側を通って遙かサハリンまで達しているのだが、釣人が鈎掛かりさせたという話は聞こえてこない。
 太平洋方面でも、津軽海峡を越えて仙台湾のあたりまで、手の平大の小物でさえ鈎掛かりさせたと云う話は皆無である。古い遺跡からマダイの骨は出てくるが、寒流が南下する東北の太平洋側ではマダイは生息できないのである。したがってむつ湾がマダイ釣りの北限と云いうことになる。
 マダイが青森まで北上して釣りのシーズンとなるのは四月の後半である。日本海側の深浦湾沖合から始まり、次に十三湖沖、小泊沖と続く第一陣のマダイにはオスのデカ物が多い。腹にバンバンの白子を抱えた70cm、80cm、90cmの物凄いデカ物が鈎掛かりするのだから釣人は狂喜してしまう。80cm級でもヒットすれば潮の力とマダイのパワーで20分以上の大格闘になるだろう。
 潮の速さにもよるがブラーは40gから80gを使用し、青イソメを5本から6本をフサ掛けにする。ユラユラ動くブラーに最高に相性が良いのがイソメである。ラインはPEでも良いがショックに強いフロロが無難である。
 五月の声を聞くとむつ湾の入口である竜飛崎で釣れ始める。ここは魚種も豊富で魚影の濃いところだ。60cmクラスも混ざって釣果は倍増するが、竜飛崎は日本三大潮流の一ツである。潮流に乗ったマダイのパワーはまた格別で、釣人は天国のような至福を味わうことになる。
 六月に入るとむつ湾全域でマダイが釣れだしてフィーバーするが、初期は海底に雪代の冷水が残っているのでマダイは底にはいない。30gのブラーを潮上にキャストして30m位の中層を狙うといいだろう。
 むつ湾は全面がホタテ養殖場のようなものだから、マダイの産卵には最適の条件が揃っている。夏の間、稚魚はホタテ養殖の籠に付くカラス貝や虫類、またはネットから逃げたホタテの小貝等を食べて半年で手の平大まで成長する。
 竜飛崎では潮が速いので50g~60gを使って底狙いになるが、流れの緩い湾内では、8g~12gの軽いノーマルブラーを水面からゆっくり落とす釣りとなる。マダイは海中に吊したホタテ貝に付いているので、タナは5mから10mくらいまでで良い。
 むつ湾は青森湾と野辺地湾に分かれており、東側の野辺地湾では夏から十一月まで釣れ続く。
 ところが十一月も終盤になると日本海側最北の竜飛崎で一時は釣れるものの、海が荒れることが多くなって釣りもままならずと云った状態になる。この時点で北限マダイ釣りの一年は終わりを迎える。

カラーの選び方

● 日中
 昼間は赤系が威力を発揮するが水深10mまでが限度である。それ以上深くなると赤は単なる黒色にしか見えないので、蛍光赤または金色を使う。金色は朝夕のマズメ時にも抜群の効果があるので外せない。

● マズメ・夜釣り
 陽が落ちる時間帯からはシルバーが効く。小魚のキラメキに近いので日中の濁り潮にも抜群である。夜釣りでは蛍光グリーンの ケミブライト が特効を発揮する。もちろん ケミホタル と組合せれば効果倍増である。

ブラーの使い方

 コツはできるだけ軽いブラーを使うことである。潮流が早くてボトムを取りにくいときには例外的に重いブラーを使うが、軽ければ軽いだけ踊りが良く、ただ落とし込むだけでユラユラと揺れて自然に誘ってくれる。ゆっくり巻き上げるだけでもヒットしてくるし、根掛かりしにくいので底を引くことも可能だ。
 ハリスに柔らかい撚り糸を使っているから、エサの動きがよくて吸い込みも良い。着底してからも生きたイソメがグニャグニャ動いてアピールは抜群である。なにもしなくても潮の流れでエサが自然に踊ってくれるのだ。見た目はシンプルそのものだが、使う人のテクニックに応じて千変万化するのがブラーである。

● ライン
ブラーは小さくても比重が高くてよく飛ぶが、なるべく細いラインを使った方がラインが出やすくて飛距離が伸びる。道糸にかかる潮流の抵抗も減らせるうえ、エサが踊りやすいので喰いがよく、さらにアタリも取りやすい。

● 遠投上層狙いの場合
中通しウキを使用する。ウキ止めの位置は1ヒロから竿の折り返しまで

基本は2タイプ

 ノーマルタイプのブラーは、波止のヘチ釣りや浅場の船釣りなど、おもに真下を狙うためのもので、フォールでのスイッチバックのアクションが基本である。キャスティング用のブラーはアイが側面についているから、少し巻き上げるとタテになって、ボディをフリフリと左右に振りながら泳いでくれる。潮の流れを切りやすく根掛かりしにくいのが特徴だ。

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西田豊忠

● ケミホタルフィールドスタッフ
アイナメ釣りの特効兵器「 西田式ブラー 」の発明者。日本のルアー釣りの開拓者であり、ヘラ鮒釣りを極め、海釣りを極めた東北の第一人者である。

地磯で10kg!
福岡県八女市の若杉さんのお話

 車で行ける地磯から10kgのスーパーマダイを釣り上げてしまった若杉さん。使った竿はなんと磯竿の1.5号です。場所は長崎県平戸島の北部、薄香湾口。そこでどんなタタカイが繰り広げられたのか、九州を代表する女性大物師若杉さんにインタビューしてみました。

 主人から運転して貰ったので詳しいポイントは判りませんが、水深はたぶん20mくらいだったと思います。
 チヌかクロでも釣るような普通の磯釣り仕掛けでした。ほかの釣りの場合は集魚剤も入れますけど、その日はオキアミだけの撒き餌をパラパラ。付け餌もオキアミです。潮は右から左へと流れていました。
 朝7時半くらいから釣りはじめて、ずーっと雑魚一匹釣れませんでした。なんの気配もなく、付け餌はいつまでもついたままです。
 あまりに釣れないので今日はもうダメかと諦めかけたころ、いきなりラインが引ったくられるように沖に走りだして止まりません。
 リールはドラグがついていないタイプのレバーブレーキです。ブレーキをかけながら50mくらい走られたところでやっと糸を止めることができました。
 最初は青物かと思ったけどいったん止まってからまたズーンと引き込んだのでマダイだと判りました。大型のエイとも違う重さです。
 使ったのは、家族みんなで主人にプレゼントした1.5号の磯竿です。自分の竿が古くて重かったので、その日は主人が新品の竿を使うように言ってくれました。でもものすごい引きのつよさに糸が切れるか竿が折れるかどちらかだと思いました。
 しばらく戦ってみて自分ではとうてい無理だと思ったので主人に代わって欲しいって頼んだのですけど「 自分で釣ってみなさい 」と言われました。家族からのプレゼントなので「 折れたらごめん 」と言って一人で頑張ることにしました。

竿も折れよ! 激闘30分!!

 竿を横に倒して全身で踏ん張りながらかれこれ30分は格闘したと思います。とにかくもう腕が疲れてしまってあまりに大変なので竿をパーッと放してしまおうかと思ったほどです。ときおりズーンと引き込むのに腕が痛くて力が入りません。
 やっとのことで瀬際まで寄せたところで主人がタモを出してくれましたけど、なにしろ重くて重くて引き上げるのは本当に大変だったです。足場は良かったです。
 でも実際に上げてみるまでこんなに大きいとは思いませんでした。鈎は口にきれいに地獄でかかっていました。
 なんとか取り込んだあとハリスを切って鈎を結び替えようとしたけど疲れと興奮で手がガタガタ震えてしまって鈎が結べませんでした。この大物を釣ったあと、主人も2~3kg級のマダイを一枚釣ったので終了しました。
 検量を済ませて家まで持って帰ったものの捌くのがまた大仕事でした。とくに頭を断ち割るのにいくら体重をかけても出刃包丁が入っていかず、金槌で叩いたので刃がボロボロに欠けてしまいました。あとで研ぎ直しの費用が痛かったです。
 ふつうマダイは2~3kgが食べ頃で、あまり大きいものは美味しくないと云われてますけど、このマダイは体長のわりに重く肥えていて、脂が乗っていたので美味しく食べることができましたよ。大きさに似合わず身がぷりぷりしていて、お腹には大きな真子が入ってました。刺身のほかに鯛シャブやかぶと煮でもいただきました。
 もういいやってくらい頑張ったので翌日は肩も足も体中が筋肉痛になっていました。次に釣りに行ったとき、リールが壊れていたことに気がつきました。2500番のリールで10kgは無理だったのですね。ブレーキを解除しても糸が出て行かなくなっていました。鈎は記念にとってあります。

福岡県八女市の若杉さん。血抜処理後の計量時10.0kg・87.5cm。