02 タチウオの生態 その2

ケミホタルの発光色と釣果

 標準的な透明度の海で、100m の深さまで届く光の量は海面の1%程度しかありません。プランクトンの多い沿海だとわずか 20m で1%にまで減衰するそうです。光量の少ない海中で活動する魚類の多くは、網膜の下にあるタペタム ( 輝板 ) で光を反射させて通常の1.5倍の感度まで増幅しています。夜行性や深海性の魚種になると、眼が大きくて網膜が受ける光の量も多いので、人間の30倍近い視感度があるそうです。
 魚類も人類も基本的な眼の構造は大きく変わりません。魚類の網膜にも、光量が豊富な場所で色彩を感じる錐体細胞と、光量が乏しい場所で明暗を感じる桿状体細胞が備わっています。海中が暗いときには桿状体が働いて、獲物と背景の明暗差を感知するので、光るエサが一番目立つことになります。
 太刀魚用の発光体にはイエローだけでなく、ピンクやレッドもラインナップされています。 発光色によって釣果に与える影響が違うので、使い分けの参考にしてください。

青色

 一般的に魚類の色覚は、赤色側よりも青色側の感受性が高くなっています。発光生物の多くはホタルイカのように青色に光るので、青はタチウオにとっても違和感のない色です。確実にアタリが増えるのですが、小物ばかりが釣れ続いて、良型があまり釣れない傾向があります。よく見えるだけに警戒されて、まだスレていない若魚だけが反応するようです。 ( 資源保護の観点から青色のケミホタルは市販されていません )

黄緑色

 植物プランクトンが多い内湾での透過性が高い光です。沿岸には黄~緑色に発光する生物が見受けられます。たとえばマツカサウオが照明に利用するのは黄色の光。産卵期のイカがメスを誘引するのも黄緑色の光です。イカを捕食する太刀魚の眼に、ケミホタルの色はなじみ深いのかもしれません。この発光色には太刀魚だけでなく、多くの魚種で集魚効果が認められます。

赤色

 赤色の光を出す生物は非常にまれです。自然界では特殊だけに、太刀魚を誘引する効果については疑問がありました。ところが実際に使ってみると、意外にも大物が釣れる確率が高いことが判りました。大型ほど眼が大きくなり、暗い海中での視力が高くなります。赤色の光はすぐに減衰するだけに、経験を積んだ大型魚にも違和感を与えにくいのでしょう。

ピンク

 赤と同じ色相でありながら、赤よりも明度が高いのがピンクです。青の補色に相当するため、海中で目立つ色なのは間違いありません。輝度が高いだけに、赤色よりも離れた場所まで到達します。黄緑色を見慣れたスレ魚にもアピール度が高く、中・大型魚の集魚に効果を発揮する色です。

光って、動いて、脂っこいエサ

 幼魚のころは動物性プランクトンやカニの子供などの甲殻類を食べ、40~50cm の大きさから小魚を捕食するようになります。
 生きたイワシやアジはタチウオの特効エサです。ゼンゴのあるアジよりも柔らかいイワシを好みますが、そのときタチウオが喰い盛っているベイトにはかないません。冷凍したキビナゴ・サヨリ・イカナゴなどの小魚は身が崩れやすいので注意してください。頭部が取れるときには爪楊枝で補強する方法もあります。
 切り身を使うときには皮の光り具合が重要です。サバが一般的ですが、サバよりもサンマが、サンマよりもソーダガツオの喰いがいいようです。脂っこいほうが釣れるので、できるだけ脂の乗ったエサを選んでください。
 同じサイズが釣れ続くときに、たまに尻尾の切れたタチウオが上がってきます。これは仲間のタチウオに喰われたのです。タチウオの皮はよく光ってアピールがいいので、エサがなくなったときは尻尾を切ってエサにしてみてください。
 喰い気のあるときはどんなエサでも釣れますが、喰い気がないときには動きで喰い気を立たせます。生きたエサが一番いいのはこのためです。動くエサを好むタチウオを釣るのに、仕掛けが一ヶ所に留まっているようではいけません。生きたエサが手に入らないときはリールを巻いて生きた小魚の動きを演出してください。タチウオは目がいいので潮が澄んでいると喰いが悪くなります。岸壁からの夜釣りでは、仕掛けを切られないようにワイヤーハリスを使いますが、喰いがよくないときには透明で自然な動きのフロロカーボン製ハリスが有利になります。喰い気がないときはなかなか飲み込みませんが、走り出すまで我慢です。走ったにもかかわらず鈎がかりしないときはたいていの場合小型です。メーター級はアタリがデリケートなので見逃さないように注意しましょう。

小魚と水深の関係

 タチウオは小魚を追って岸に寄りつくので、まず、エサとなる小魚が大量にいる場所を探すことが重要です。足下から水深のある波止は、コンスタントに釣れ続きます。水深があるために、近くに昼間のエサ場を確保でき、群れがあまり移動しないからです。さらに、満潮時だけでもいいから、その小魚が避難できる浅瀬があると条件が良くなります。小魚の通り道があるだけの場合は、長くは釣れ続きませんが一発大物が出ることがあります。
 小魚を狙うタチウオが身を隠すためには 4m 以上の水深が必要なので、大きな湾の中の潮通しがよい防波堤は絶好のポイントになります。

ハシリを待ってソフトに合わせる

 日中は水深のある暗い場所に移動しているため、堤防からはあまり釣れません。曇天か濁り潮のとき以外、タチウオが釣れるのは太陽が沈んでからの時間帯になります。タチウオが釣れるポイントには多くの人が集まるので、少し早めに行って場所を確保しておきましょう。人の多くない釣場を探す場合は、まず潮通しのよい波止の先端にある外灯を探してください。波止の先端はたいていの場合、充分な深さがあり、外灯の光に集まった小魚を目当てにタチウオが寄ってきています。
 灯りがある波止場が有利ですが、まったく灯りのない場所でも釣れます。エサとなる小魚さえ大量にいれば、そのエサ場から離れないからです。暗い状態でも捕食しているので、このとき ケミホタル があるのとないのとでは釣果が5倍以上も違います。また、夜明け前はこれからエサの少ない深場に移動する前の腹ごしらえの時間なので、短い時間ですが釣果が期待できます。
 タチウオは緩やかな流れの海底で、頭上に小魚が通りかかるのを待っていて、一気に襲いかかります。でもすぐに飲み込むのでなく、いったん小魚のエラの少し後ろの腹部に噛みつきます。このときにアワセるとエサを離してしまいます。ウキが沈んでからアワセるまでのタイミングが分かりにくいのがタチウオ釣りですが、鈎さえ飲み込めば鈎掛かりします。では、どのように飲み込んでいるのでしょうか?
 ウキ釣りの場合、タチウオはエサの小魚を捕まえると、少しの間くわえたままで、ゆっくりと泳ぎます。そのエサを飲み込むときには、口を大きく開けて 3~5m ほどハイスピードで泳ぎ、水圧で一気にノドの奥に押し込むのです。ほとんどの場合にこのアクションを行います。この後は大きく合わせる必要はないので、軽く竿をあおって、タチウオの重さを感じ取りながら取り込んでください。この釣り方だと鈎はほとんどノドの奥に掛かります。タチウオの頬の内側には肉がないので、このように飲ませて釣るのです。

エサを早く飲み込ませるコツ

 タチウオがエサに喰いついたら、リールをフリーにして道糸を軽く指で押さえて糸を張っておきます。竿先がやや曲がるくらいまで張るとタチウオと通信できます。この状態でラインにテンションをかけておくと、タチウオは自分がくわえている小魚がまだ生きていると思いこみ、逃がさないように噛みなおすため頸を振ります。そのアクションが竿先にコンコンと伝わります。このとき、あまりラインを強く張りすぎているとエサの小魚がちぎれるのでソフトにソフトに張ってください。
 コンコンの頸振りを何度か繰り返したあと、早く飲み込もうとするため突然スピードを上げて走ります。
 この走りを軽く止めるようにすれば鈎がかりします。あまり強く合わせるとエラにかかった鈎が抜けてしまうので注意してください。
 アタリが出てから一気に沖に走るタイプは大型です。置き竿にしていて竿を持っていかれないように注意してください。

ケミホタル - 夜釣りはこれがないと始まらない